Solyuの気まま日記

Solyuの思ったことや考えたことをまとめます

全ての面が四角形でできた多面体について

久しぶりに記事を書くことになりました。Solyuです。最近は数学をする傍ら、Baba is youや14 Minesweeper Variantsなどのパズルゲームを遊んでいます。

 

さて今回は、2023年の元日に私がTwitterに投稿した、『全ての面が4角形の2023面体は存在するか?』という問題について説明しようと思います。

 

この問題について今考えたい方は、ここでスクロールを止めて下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーそれでは解説を始めます。

1 全ての面が4角形のn面体:nが偶数の場合

真っ先に思い浮かぶのは、n=6のときの立方体でしょう。2つの立方体を少し歪ませてから、双方の1面を貼り合わせることで、10面体を作ることができます。同様に考えることで、nが4で割って2余る場合は比較的簡単に構成できます。

では、nが4の倍数だった時はどうでしょうか?少し歪ませた4つの立方体を縦2列、横2列に並べて貼り合わせることで、16面体を作ることができます。先程と同様に、この立体と少し歪んだ立方体とを1面ずつ貼り合わせることで、nが16以上の4の倍数のときも構成できます。

では、n=8,12のときは構成できるのでしょうか?

何とこれ、構成できます。それも、全ての面が合同になるようにできるのです。

具体的な構成方法を、今から説明しましょう。まず、正(n/2)角反柱を用意します。正多角反柱は、正多角柱(=底面が正多角形、側面が正方形となっている立体)を少し捻じった形をしていて、底面が正多角形、側面が正3角形になっています。

さて、この立体の各面の重心を取ります。そして、これらの点のうち、元の面が変を共有している点同士を辺で結び、新たな立体を作ります(この操作で構成される多面体は、元の多面体の双対多面体と呼ばれます)。

この、正(n/2)角反柱の双対多面体が、求めるn面体になります(後で必要になるので述べると、これは凸多面体でもあります)。この方法はnが6以上の偶数なら適用できます。n=6での例である立方体は、正3角反柱=正8面体の双対多面体として得られるのです。

この図形は全ての面が対称なので、サイコロとして使えなくも有りません。立方体は言わずもがな、n=10の場合は10面ダイスとして見かけたことのある人も少なくないのではないでしょうか。

逆に、1つの4角形の面を固定したとき、その各辺に接する4面は全て異なりますから、最低でも5面は必要です。よって、n=2,4の場合は存在しません(偶数ではありませんが、n=1,3の場合で存在しないこともこの議論より従います)。

 

 

2 全ての面が4角形のn面体:nが奇数の場合(その1)

この場合、先程のように正(n/2)角反柱を経由する方法は使えません。しかし先程、6以上の任意の偶数において存在が確認できたことが幸いし、ある奇数xで構成できたら、その図形と(必要なら上手く面を歪ませて)1面ずつ貼り合わせることで、x+4,x+6,x+8,...とx+4以上の任意の奇数で構成できることが分かります。

では、そんな奇数xは存在するのでしょうか?結論から言うと、有ります。

早速、x=11での例を構成しましょう。

  1. 正8角錐を2つ用意し、底面同士で貼り合わせる。
  2. 得られた立体を、2つの8角錐の頂点と、底面の8角形で真反対の位置にある2頂点の合計4頂点を通る平面で切断する。この切断面は4角形になる。
  3. 先程得られた立体を、切断面が地面に接するように置きなおす(カクカクのホタテ貝みたいな見た目になります)。このとき、地面に接していない頂点のうち、最も高い所にある頂点が1つ、それ以外の頂点が2つある。ここで、最も高くない2頂点周りの角(かど)を、(適度に小さく)切り落とす。
  4. こうして得られた立体が、全ての面が4角形の11面体である。

という訳で、なんと全ての面が4角形である11面体は存在するのです!これにより、最初に掲げた問題『全ての面が4角形である2023面体は存在するか?』という問題の答えは、『存在する』になります。

  Answer: 全ての面が4角形である2023面体は、存在する。

この構成方法は一般化でき、初めに4k角錐を用意した後、手順2を先程と同様に行い、手順4を[最も高くない2頂点]→[地面に接していない点で一番地面に近い点(のうち片方)をスタートとし、4k角形の周上に沿って1個飛ばしで進んでいったときに通る(スタートを含めて)k個の点周りの角を切り落とす]と変更できます。この方法によって得られる立体は5k+1面体で、特にk=1のときは6面体になります。では立方体なのかというと……そうではなく、コタツのような形の立体が得られます。なんともお正月らしいものが出来上がりましたね。

 

 

3 全ての面が4角形のn面体:nが奇数の場合(その2)

これで、まだ解決していないのはn=5,7,9,13だけになりました。しかし、これらの場合に関しては更に深刻です。先に言うと、構成できない場合が存在するからです。

まずは、n=9の場合で構成しましょう。

  1. 正6角錐を2つ、6角形の面同士で貼り合わせる。
  2. 出来た立体を、貼り合わさっていない2頂点と、正6角形のうちどれかの頂点1つを通る面で切断する。この切り口は4角形になる(正6角形の選んだ頂点の真反対の頂点も通るため)。
  3. 正6角形の辺3つの中点を順にA,B,Cとする。また、初めに貼り合わせられなかった2点を結ぶ直線をLとする。Lと平行でA,Bを通る平面、Lと平行でB,Cを通る平面でそれぞれ切断する。
  4. こうして得られた立体が、全ての面が4角形の9面体である。

n=13の場合は、n=9の場合から構成できます。

こうして、9以上の全ての奇数に対して、存在が示されました。では、n=5,7の場合は、どうなるのでしょうか?

先に言ってしまうと、多面体が凸である条件の下では、存在しません。

この事実を証明するため、次の補題を証明します。

 補題:凸多面体Vは全ての面が4角形であるとする。このとき、Vの頂点は2-頂点彩色可能である。

先に、n彩色可能について説明します。どの辺もその端点2つが同じ色にならないように頂点全部を塗るとき、全部でn色以下になるように塗ることができるとき、n彩色可能と呼びます。

また、次の定理を認めます。

 定理(シュタイニッツ):凸多面体グラフは、3-頂点連結な平面グラフである。

これも用語を説明します。多面体グラフとは、凸多面体の頂点と辺とを表すものです。

例えば正4角錐ならば、頂点はa,b,c,d,eの5つあり、そのうちa-c間とb-d間だけ辺が無く、他はどれも辺1本だけで繋がっているグラフになります。

平面グラフとは、どの辺も(頂点以外で)交わらないように平面上に書くことができるグラフのことです。

また、3-頂点連結グラフとは、どの2点を取り除いても連結なグラフのことです。

さて、Vの双対の多面体グラフを取ります。このグラフは、どの点からもちょうど4本の辺が出ています。ここで、以下の定理を用います。

 定理:連結な平面グラフが2-面彩色可能である必要十分条件は、そのグラフの任意の頂点から、ちょうど偶数本の辺が出ていることである。

よって、Vの双対の多面体グラフは2-面彩色可能です。これはVの双対が2-面彩色可能であることにほかならず、双対によって頂点と面とが移り合うことを考えれば、Vが2-頂点彩色可能であることが従います。

さて、Vは連結で2-彩色可能なグラフなので、1つの点の色を任意に決めると、他の点の色が自動的に決まります。これによって、次が従います。

 系:Vの多面体グラフは2部グラフである。

さて、Vは多面体であることを考えると、どの頂点からも最低で3本以上の辺が出ています。また、どの辺もちょうど2つの面が共有し、どの面もちょうど4本の辺を持つので、辺の本数は面の数の2倍になります。このことから、オイラーの多面体定理より頂点の数は面の数+2になります。また、多重辺は存在しません。

以上より、次の事実が従います。

 主張:Vの面数をnとする。このとき、nは6以上である。

証明します。2部グラフにおける片方のグループは元がn/2+1以上あります。どの点からも3本以上の辺が出ているので、このグラフは3n/2+3以上の辺を持ちます。nが5以下のとき、これは辺の数が2nであることに矛盾します。

これにより、2部グラフの両方のグループの元の数は4以上です。

 主張:Vの面数をnとする。このとき、nは7ではない。

証明します。辺の数は14ですが、多い方のグループには5元以上有るので、2本以下の辺しか出ていない点が存在し、矛盾します。

以上より、n=5,7の場合、少なくとも凸多面体ではないことが分かりました。

一方、nが6以上の偶数か、n=9,11のとき、構成方法により凸多面体ができます。また、全ての面が4角形のk面体の適当な面に対し、一方の底面をその面と同じ形(正確には鏡像)、それよりも一回り小さい4角形をもう一方の底面とする、十分に高さの低い柱体を貼り付けることで、n=kでの例からn=k+4での例を構成できます。よって、8以上の全ての整数と6の場合で、凸多面体となるように構成できることが従います。

以上の内容を纏めると、次の通りです。

 定理:全ての面が4角形である凸n面体が構成できる必要十分条件は、n=6またはn≧8である。

 

 

4 全ての面が4角形である、凸ではないn面体

では、n=5,7のとき、凹多面体で条件を満たすものが有るのでしょうか?

まず、n=5のときを考えます。凹なので、頂点数は5以下です。よって、適当な2面に対して、3点を共有します。これはこの2面が異なる面であることに矛盾します。

n=7のとき、事態は非常に深刻です。というのも、7つの面から成る多面体で、トーラスと同相なものが存在するからです(シラッシの多面体)。

仮に、条件を満たす立体が存在するとします。この立体の種数が2以上のとき、頂点の数は5以下になり、辺の数が14であることに反します(辺の数が14であることは、どの辺もちょうど2つの面が共有することから示されます)。よって種数は1です。このとき、この立体の7頂点と7面に対し、以下が成立します。

  1. どの2つの面も、3点以上を共有しない。
    3点以上を共有すると、その2面が異なることに矛盾します。
  2. どの頂点も、5面以上に含まれない。
    有る頂点Aが5面に含まれるとします。前述の主張により、この5面は他の共有点をそれぞれ1つまでしか持ちません。ここで、残りの頂点6つに対して面は5つあるので、有る頂点B(Aではない)がこの5面のうち3面以上に含まれます。そうなると、この3面に対し残りの頂点は5つしかないので、矛盾します。
  3. どの頂点も、ちょうど4面に含まれる。
    先程の事実により、どの頂点も4面以下にしか含まれません。一方、どの面も4頂点を含みます。よって、ちょうど4面に含まれます。
  4. どの2面も、ちょうど2頂点を共有する。
    1頂点Aしか共有しない2面が有ったとします。このとき、この2面以外でAを含む面を取ると、2面のうち片方と3点以上を共有し、矛盾します。
  5. 同じ2頂点を共有する3平面は存在しない。
    2での証明と同様に、共有されない頂点が合計で6つあるのに対し、残りの頂点は5つしかないので、矛盾します。
  6. 7つの頂点を上手く割り振ると、7つの面は、[1,2,3,4],[1,2,5,6],[1,3,5,7],[1,4,6,7],[2,3,6,7],[2,4,5,7],[3,4,5,6]をそれぞれ通る面と表せる。
    5までの事実を元に考えれば、上記のパターンしかないと示せます。
  7. どの2頂点に対しても、その2頂点を通る2面において、両方の面で辺を成す。
    ある2頂点A,Bが、その2点を通る両方の面で対角線となるとき、この2面は対角線で交差してしまい、多面体であることに反します。
    片方だけ辺である場合、この辺は1つの面のみが辺とすることとなります。これは、どの辺もかならず2面が共有することに反します。
  8. 以上より、全ての面が4角形である7面体は存在しない。
    7より、この立体は7C2=21本の辺を持ちます。これはこの立体が14本の辺を持つことに矛盾します。

以上より、n=5,7の場合で条件を満たす多面体は存在しないことが分かりました。

ここまでの内容を纏めましょう。

 定理:(1) 全ての面が4角形であるn面体が構成できる必要十分条件は、n=6またはn≧8である。
(2) n=6またはn≧8のとき、上の条件を満たす凸n面体が構成できる。

 

 

5 終わりに

ここまでで、全ての面が4角形である多面体について考察しました。特に、nが6以上の偶数のときは、サイコロ代わりに使える立体として構成できるという結果は、大変興味深いのではないでしょうか。

この記事を読んで下さっている皆様の中にも、お正月シーズンということで、これから双六を遊ぶ方がいらっしゃると思います。そのときには、(きっと立方体の形をしているであろう)サイコロを振りながら、全ての面が4角形でできた多面体について思いを馳せてみてはいかがでしょうか。