Solyuの気まま日記

Solyuの思ったことや考えたことをまとめます

個人的におススメのマイナーパズルゲーム4選 (※エイプリルフール企画)


0 はじめに

注意! WARNING!!!

以下の内容はエイプリルフール企画として2024年04月01日に投稿されており、各見出しのゲームはどれも存在しません。

それでも宜しい方のみ、架空の内容をお楽しみ下さい。

 

 

この記事は パズルゲーム紹介 Advent Calendar 2024.04 の1日目の記事です。

それでは早速、個人的におススメのマイナーパズルゲーム4選の紹介に移ります。

 

1 嘘つきは踊る

舞台は産業革命後のヨーロッパ。プレイヤーは探偵となって街の人に聞き込みを行い、隠された真実を導きます。

しかし全ての人が本当のことを言うわけではありません。

嘘つきを見分ける方法、それは―――――

『嘘つきは常に動いている』

ずっと歩き続けていたり、目を泳がせていたり、手をぶらぶらさせていたり……何気ない背景の変化に気を配り、嘘を見破らなければいけません。

しかし話が進むと、素振りから嘘を見破るのが難しくなってきます。街中の証言を照らし合わせたとき――あなたはこの世界に潜む、大きな嘘に気付くはずです。

2 TAC-TIC-S

まず目を引くのは、背景にある時計の多種多様さでしょう。街の壁や信号機、果ては自転車の車輪にまで時計の模様があしらわれています。

そう、このゲームでは全てのパズルが時計の形をしています。『時計術師』のあなたは、上手く調整して街中の時計を正確な状態に戻さなければいけません。

――なんでそんなことをするのか、ですか?ところでこの街、時報の鐘が壊れてから一度も太陽が昇ったことが無いのですが……

止まってしまった通行人、蕾から芽になる植物、出した覚えのない手紙、これらは全て時計のせいなのです。正しく直して、良い一時を送ってもらいましょう!

3 交通渋滞

RUSH HOURを基にした、スライディングパズル風のゲームです。

ターン経過で勝手に移動する車を上手く誘導し、衝突事故を起こさずに外に逃がすことが目標になります。

ただの車なら良いのですが、ステージが進むとギミックとして救急車や馬車、音楽隊や果てには大名行列まで入り込んできます。先に情報量が渋滞しそう

通常のパズルを解く以外にもバトルモードエンドレスモードが有り、前者は邪魔な車を上手く相手の方に誘導して渋滞させる駆け引きが熱いです。後者は如何に多くの車を上手く誘導できるかを競うもので、時間制限が無いこともあり全力をぶつけて挑戦することができます。

4 卯月先生の不思議な黒板

謎解きと融合した形のパズルゲームです。体感としてはUnderstandの?ステージが近いでしょうか。

プレイヤーは黒板に色んな記号を描きます。記号はそれぞれ何かしらのルールに基づいて反応するので、そのルールを推測しつつ黒板を指定の状態に持っていくことが目標です。

この反応が非常に多彩で、○だけでも色が変わる・振動する・大きさが変わる等の基本的な変化から、満ち欠けする・レンズの様に奥の記号を拡大するなど奇抜かつそのステージの攻略そのものに大きく関わる変化をするものまであります。勿論、ある記号の変化が他の記号の変化に連鎖的に反応することも有るので、要注意です。

またこのゲームには『無限ループ』というシステムが有り、余りに変化を連鎖させ過ぎると特殊な反応が発生します。どうなるかは……実際のプレイでお試しあれ。

5 見てます。 / I'm watching you.

ホラーテイストのパズルゲームで、超の付く怪奇作です。

プレイヤーはとある世界の管理人となり、その中の人型生物(=ミル)を監視する仕事に就きます。上手く監視して行動を制御するのが目標です。

このミル達ですが、何とも凶暴な性格を持っており、あなたが見ていないとすぐに喧嘩し出しますし、奪い合いが絶えませんし、あなたが折角置いた『幸福の像』も崇拝どころか勝手に破壊しつくしてしまいます。

ですから、あなたは街中至る所を徹底的に監視し、悪事を洗いざらいにして、この荒れ果てた社会に秩序と平穏をもたらさなくてはなりません。

幸いにも、管理人の特権として不思議なモニターが手に入りました。さあ、その目に映る世界を思い切り綺麗にしてあげましょう!

 

[世界の名前]を削除しますか?

➤ はい、ハルマゲドンを実行します

➤ もう一度考え直します

6 おわりに

……ゲーム紹介『4選』では?と思った方もいるでしょう。

ですが、これには理由が有ります。

最初に述べた通り、この記事はエイプリルフール用です。

ここまで見出しで挙げたゲームはどれも存在しません。

『4選』も『パズルゲーム紹介 Advent Calendar 2024.04』も嘘ということですが……最初の嘘に比べれば些細でしょう。

 

↓ 以下は本当の内容です!

実は現在パズルゲームの制作を密かに進めていて、その時の没ネタを大放出したものが今回の記事でした。

並行パズルシリーズも含めて色々準備しておりますので、気長にお待ち下さりますと幸いです。

それでは、良い一日を。そして、嘘は4月1日の間についてしまいましょう。

境界ではない太線の扱い

この記事は ペンシルパズル Advent Calendar 2023 - Adventar の12日目の記事です。

 

パズルでは、初めから盤面が太線で区切られ、幾つかの領域に分かれていることが有ります。

代表的なものは、数独へやわけでしょうか。これらのパズルでは領域に依存したルールが存在し、それぞれ『どの領域内にも1~9が1つずつ』『縦横1直線に3領域以上を白マスが横断してはならない』という形で組み込まれています。

しかし、太線をでたらめに引いても綺麗に領域分割できるわけではありません。引き方によっては、領域分割に関係しない太線が残ってしまうことが有ります。

Q. これらの非境界線(境界ではない太線)は、ルール上どう扱われるか?

これに対し、幾つかの解釈が用意されてきました。その先例を見つつ、この問題について議論していきましょう。

 

1 スイッチ ~領域にギミックを関連付ける~

まずは、 "Cross Border Parity Loop" を見てみましょう。

www.gmpuzzles.com

 

リンク先の問題では初めから非境界線が有り、その扱いについては括弧付きで明確に記されています。話の都合上、まずは境界線だけの状況だとしてルール文を解釈した上で、元のルール文について考察しましょう。

さて、非境界線が無い状況(以後、『通常モード』と呼称)を考えます。
ルールのうち領域に関する箇所を挙げると、次の通りです。

  • 数字は、その領域内にある特定色のループ線の長さを表す。
  • ループ線境界線をまたぐと、線の色が変わる。

さて、早速前者について見てみましょう。この問題での扱いは『非境界線を無視する(=どの領域に属するかだけを参照する)』というものです。今後、このように非境界線を無視する解釈を、自明な解釈と呼ぶこととします。

一方で、後者を見てみましょう。このルールでは境界線はスイッチの役割を果たし、通る度にループ線の色が変わります。そして注釈はこの場合に触れており……なんと!非境界線でもまたぐと色が変わるのです。

別の見方をすれば、次のように言い換え出来ます。

  1. ループ線は、スイッチを踏むたびに色が変わる。
  2. スイッチの場所は全て示されている。
  3. (作問上の制約として、)境界上には必ずスイッチを置く。

つまり、本来は領域とは独立したギミックであるスイッチを、境界上に必ず置くという作問上の制約によって領域と関連付けたと言えます。

この解釈は『境界をまたぐ』系の文言がルール中に有る他のパズルでも主流であり、たとえばへやわけでは次のようにルールを拡張して非境界線にも適用しています。

 旧:縦横で連続する白マスが3部屋以上を横切ってはならない。
 新:縦横で連続する白マスが太線2本以上を横切ってはならない。

 

2 キレコミ ~領域内の連結性に干渉する~

続いては、カントリーロードを見てみましょう。

www.nikoli.co.jp

 

通常モードでルールのうち領域に関する箇所を挙げると、次の通りです。

  • 数字は、その領域内でループ線が通るマス数を表す。
  • ループ線が通らないマスは、境界線を横切って隣り合わない。
  • どの領域も、丁度1回ずつ通る。

これを非境界線に拡張するとどうなるか、今回はPuzz.link(有志によって開発されている、ペンシルパズル専門のツール)での扱いを例に見ていきましょう*1

puzz.link

 

1番目ですが、これはCross Border Parity Loopと同様に無視されます。『領域内』とある際は、この様に自明な解釈が取られることが多いようです。

2番目ですが、これは元のルール文で『太線』と記述されており、実際に非境界線であっても両側どちらも通らないとルール違反として検知されます。
前の項目に倣えば、『両側が白マスになってはいけない』というギミックを、境界線上に必ず置いているとも言い換えられます。

さて、問題は3番目です。こちらは次のように解釈されています。

  1. 領域内で、ループ線はひとつながりになっている。
  2. 非境界線は領域内の切れ込みとして作用する。つまり、各領域内のループ線は、非境界線をまたがずにひとつながりになる必要が有る。

結果的に、ループ線は非境界線をまたぐことができません。例外として、1つの部屋から一度も出ないケースのみ、その部屋内で1度だけ非境界線をまたぐことが許されます。

この手の『2度同じ領域に入ってはならない』ルールは、オールorナッシングや月か太陽などのパズルにも見られ、そこでも同じ解釈が為されています。

 

別の例として、Kaisuを見てみましょう。

puzz.link

 

通常モードでルールのうち領域に関する箇所を挙げると、次の通りです。

  • どの領域も、道(SからGへの向きが有る線)がその領域を通るのがN回目のとき、◯を通るのであればN個ちょうど通る必要が有る。

では、道が非境界線をまたぐとどうなるのでしょう。結論から言えば、次のように解釈されます。

  • その時点で通った◯の個数を参照し、ルール違反か判定する。
  • その領域を今までに通った回数が+1される。

つまり、一旦出た後すぐに入り直したものとして扱うということです。スイッチとして解釈すれば、次のようにも言い換えられます。

  • 出る側の◯のカウントを止め、通った◯の個数がルール違反か判定する。
  • 入る側のNを+1し、◯のカウントを新たに始める。

この仕様が面白かったので、1問制作してみました。比較的難しめですが、宜しければご覧下さい。

puzsq.logicpuzzle.app

 

なお、Rassi Silaiではそもそも緑線が太線を横切れないようになっています。これは、仮にカントリーロード方式で解釈したとしても、横切った太線の両側が緑線の端となってルール違反になってしまうからだと思われます。

 

3 ノリシロ ~同じ領域同士の境界線として見る~

次は、ワンルームワンドアを見てみましょう。

puzz.link

(ニコリ発祥のパズルですが、ニコリ公式でのルール説明のページがインターネット上に見当たらなかったため、孫引きさせて頂きます)

 

通常モードでルールのうち領域に関する箇所を挙げると、次の通りです。

  • 数字は領域内の黒マス数を表す。
  • 白マスはその領域内だけを通ってひとつながりになる。
  • どの2領域を取っても、その境界線の中で両側が白マスになるものは最大で1つである。

このうち1番目のルールは領域内の条件であり、自明な解釈がされます。

2番目はキレコミの解釈がされ、『その領域内だけを通って→太線を横切らないように通って』となります。

3番目は少し特殊な解釈で、2領域に同じ領域を取ったときの『境界線』をその領域内部の太線として解釈し、その上で判定しています。

この解釈を『ノリシロ』と名付けましょう。すると、今までの内容を非境界線ではなく境界線として解釈できます。つまり、ある領域の境界線に、その領域内の非境界線も新たに含めてしまうということです。

線の出入りを『境界線を横切ること』と再定義すれば、KaisuのNなどもノリシロとして再解釈できます。

 

4 ツイタテ ~通せんぼのギミック~

キレコミと似て非なる解釈に、ツイタテが有ります。『非境界線を横切ってはならない』というルールを追加するという解釈です。

言い換えれば、非境界線を囲う薄い領域を作って、それを盤面から取り除いてしまうとも言えます。

汎用的に思えますが、境界線と非境界線とで扱いが異なるというのが余り受けが良くないようです。ツイタテは『非境界線のときのみ障害物となる』ギミックですが、いつでも障害物になるギミックの方が好まれるようです。

その為か、領域分割の太線を用いるパズルでは明確にキレコミではなくツイタテを採用しているものは見当たりませんでした。

※ 境界線を引いてしまうと盤面を分断することとなるので、ルール上の分断禁で結果的に非境界線しか引けないというケースは有ります*2。ただ、こちらは単なる障害物の性質であり、非境界線のみに特別な意味を持たせるものではないでしょう。

 

5 イロドリ ~現状で意味を持たないもの~

さて、ここからは現状で自明な解釈しかなされていないものを紹介します。

  • ドッチループ (領域内で特定の性質を共有)
    『同じ領域内では、◯印上で直進か曲折かは全て同じ』というルールが有ります。『領域内』なので自明な解釈が最も自然ですが、それでは非境界線には何の意味も無いことになってしまいます。
    現状で意味を見出すことは難しいですが、いっそのことスイッチとして解釈するのが1つの方法かもしれません。その場合、パリティからスイッチは必ず偶数回通るようにする必要が有りそうです。

    同様のケースには、ワールドツアーなどが有ります。この様に領域を単なるグループ分けで用いている場合、グループ分けに関わらない非境界線は自明な解釈をするのが主流のようです。

  • ぬりめいず (2×2禁)
    『白マス・黒マス共に2×2の塊を作ってはならない』というルールが有ります。このルール自体は太線はおろか境界線にすら関係しないルールなのですが、ここにツイタテの解釈ができる可能性が有ると考えています。つまり、2×2禁を『非境界線を内部に含まない2×2領域の塊はNG』に緩和するのです*3。同様にして白マスの小ループ禁も緩和します。

    2×2禁や小ループ禁はぬりかべを初めとして多くのパズルに採用されているので、可能性が有りそうです。

  • カーブデータ (線の形状)
    キレコミとして解釈が出来そうです。キレコミ線の直前に線が曲がるなどで、非境界線をまたぐ必要を生み出せます。

 

6 まとめ

以上、パズルにおける非境界線の扱いを紹介しました。パズルによってスイッチ・キレコミ・ノリシロ等といった様々な興味深い拡張が広げられているのは、開拓のし甲斐を感じさせます。

それでは、良い一日を。

*1:へやわけと同様に、ニコリ本誌では非境界線は扱わないものと想定していますが、もしニコリ本誌での非境界線に関する言及をご存知の方はご一報下さい

*2:ななめぐりの斜め線など

*3:2×2禁は1点を囲う最小のループの禁止と言えるので、ツイタテがループの線を阻害すると解釈できます

並行パズル邂逅記 裏話

8月に並行パズル邂逅記を公開してから、はや3ケ月が経過しました。多くの反響をいただき、並行世界の住人もきっと喜んでいることでしょう。

今回は、そんな並行世界について、語りそびれたことをほんの少しですが語ります。

 

1 なぜストーリーを加えたのか

最初に述べておきたいのは、私が物書きとしては本当に素人であるという点です。それでもストーリーを加えた理由は大きく分けて2つ有ります。

1つ目は、並行パズルと既存のパズルとの比較をすることです。ストーリー中には既存パズルが多く記されていますが、これらとの比較により並行パズルの立ち位置を明確にしようと思いました。

並行パズルは既存のパズルにはない新しい要素を持っていますが、その一方で既存のパズルから外れ過ぎないようにもしています。Castle Walkerを例にすると、このパズルはCastle Wallとはかなり離れたパズルですが、『シンプルループを描く』『数字は線の長さと対応』『デザインは大きく類似』と共通点も残っています。

これらの内容を語る形式として、ストーリー中での記述が採用されました。

2つ目は、例題の解答を画像で載せることです。ルールの理解には、例題とその正解盤面を提示することが有効であろうと考えました。しかし、現状のPuzzle Square JPでは画像付きのコメントは予約投稿に入れられず、また例題の隣に直接解答を配置する方式もやや遠回りかつ、その問題を解答図を見ずに解くことができなくなります。

そこで、ブログで例題とその解答を予約投稿する形式を採用しました。サムネイル用として、解答のイメージ図もついでに作成しました。

 

 

2 ストーリーFAQ

『現時点で』お話しできる内容だけ載せます。

  • デコが読める文字と読めない文字は?
    基本的に、並行世界間ではお互いの言語は通じません。
    しかしデコは案内人なので、特別に異なる言語間でも会話することができます。
    ですが、並行世界以外の文字は話せても読めません。デコが説明するのは並行世界のパズルのみであり、それ以外の世界の文字を読む必要がないからです。
    今後別の案内人が現れた場合も、恐らくは同じ特徴を持つでしょう。
  • 『空から現れた大きな窓』とは?
    Parallel Universe II というパズルコンテストのことです。
    本企画のインスパイア元でもあります。
    作中に登場した『Akichiwake』というパズルは、このコンテストが由来です。
  • デコ以外の住人は居るの?
    居ますが、並行世界内でも会話することは難しいでしょう。
    『それら』と言語が通じ合うことは稀です。
    ―――パズルは寡黙なのです。
  • 並行世界のパズルと、元のパズルとの関係は?
    並行世界のパズルは現実世界の似たパズルとある程度紐づけられており、似たパズルを挙げることでそのパズルの内容が分かることが有ります。
    特に後半では、この現象が顕著になっています。
  • デコの名前の由来は?
    英語の接頭辞 de-『離れて』、co-『共に』を合わせたものです。
    幾つか案は有りましたが、音の響きが良いのでデコに決めました。

 

 

3 各パズルの制作後談

  • 四隅に切れ
    《もし、複数の数字が長方形の中に入っていたら》
    先陣を切ってもらうに相応しいパズルとして選びました。
    原案自体は数か月前に大学のパズル同好会での活動中に作成したもので、デザインなどの変更を経て出題に至りました。
    何も説明していませんが、Q2から負の数が登場しています。この様な『説明では特に触れられていないが、容易に誤解なく推測できる要素』がもう少し織り交ぜられると良かったとも思うのですが、難しかったため断念しました。
    アフターストーリーでは『?』が追加されました。?は1以上の整数を表すもので、『-?』となれば-1以下の整数となります。

  • Castle Walker
    《もし、数字と色がそのマスを通る線に対応していたら》
    ごちゃ混ぜ感のあるパズルですが、どの手掛かりもうまい具合に絡められるので制作は意外に楽でした。有向ループは非常に制約が強く、やむなくリフレクトリンクの十字マークを採用しました。結果的に十字マークを絡めた手筋が生まれたので、意外と有向辺と線の交差とは相性が良いのかもしれません(既存のパズルでは、アイスバーン系もこの両方を取り入れていると言えます)。
    このパズルは手掛かりによって趣向の凝らし方を様々に変えられるのが、大きな強みと言えそうです。

  • 加算コーナー
    《もし、全体制約が変なキラー数独が有ったら》
    難産でした。数字配置系では数独が非常に強く、少しの違いでは数独のバリアントとしての側面が強くなってしまいます。そこで、数独からイメージを大きく離すために六角盤面など特殊な要素を多く取り入れました。
    今回唯一の数字配置系でしたが、なかなか面白いパズルが作れそうなルールに仕上がったと個人的には思います。
    個人的には、サイズによって解き筋が大きく異なりそうだと感じています。特にN=5,6の小サイズでは、1を全て置くのがなかなか難しいです。
    [余談] 略称はどうしましょうか。カッコー?うーん……

  • ~やわけ
    《もし、数字が部屋内の各領域の面積を表していたら》
    こちらは加算コーナーを凌ぐ難産です。このパズルは『各部屋の数字の手掛かりで、その部屋内の黒マスの塊の面積を1つずつ表出する(※そのため、黒マス隣接禁は除く)』というアイデアだけがあり、そこからへやわけの要素『3連禁』を入れようとするも、黒マスの制約が弱すぎて断念しました。
    幾つか強い制約を試した結果、ヘビが一番上手くいったのでヘビにしました。更に表出する数字は白マスの方が面白いと思い、現在の形になりました。
    最終的にはAkichiwakeに近い形となりました。並行世界リスペクト。

  • フェンスミノ
    《もし、同じ面積の領域同士を大きく離す必要が有ったら》
    中々雰囲気が掴みにくいパズルだと思います。初めはフェンス同士は点だけでも接してはいけなかったのですが、流石に制約が強すぎた為緩和しました。
    後で気付いたのですが、チェンブロというパズルが割と近いです。同じ面積の領域を大きく離すという意味では、るっくえあも近いでしょうか。
    アフターストーリーではデザインを一新し、より解きやすくしました。このパズルはまだまだ成長のし甲斐が有りそうです。
    ルールはやや複雑ですが、チェンブロとの差別化も考えて据え置きしました。その代わり、より分かりやすい表現に変更しました。
    また、複数の方からご意見を頂き、マスの中央と格子点とを入れ替えました(それに伴い、ルール文の一部の内容が変更されています)。

  • ハニーテリトリー
    《もし、ハニーアイランドにより明確な理詰め要素を加えるなら》
    意図して『6番目』に置きました。理由は言わずもがな。
    今回のパズルの中では、一番バリアントらしいパズルだと思います。本当はもう少し理詰め要素を増やしたかったのですが、フェンスミノや美術回廊などのルール多め群が多すぎてもいけないと思い、分かりやすさを優先させました。
    私はハニーアイランドの直感的な解き方が苦手で、そのためハニーテリトリーの問題はある程度の理詰めができるようにしてあります。それでも一意解性の確認には苦労しました。ツールは本当に偉大ですね……。

  • 対称星
    《もし、銀河の中心が分からなかったら》
    白黒なのにデザインの主張が激しいパズルです。夜空が綺麗ですね。
    ルール自体は単純ですが、初めは☆1つの銀河を許容していた為、カオスでした。☆2つ以上という制約のお陰で、かなり纏まったのではないでしょうか。
    なお、アフターストーリー追加に当たって2つルールを追加しました。
    『線が星を横切ってはならない』『銀河に穴が開いてはならない』です。
    前者はアフターストーリーの問題をご覧下さい。後者は大きな銀河を作ろうとしたときに、中央に穴を開ける別解が出てきてしまうのを防ぐ狙いです。

  • 美術回廊
    《もし、直角三角形が光を反射したら》
    シャカシャカのあの三角を取り入れたいという挑戦作です。
    リフレクトリンクから『鏡台』というアイデアを思いつき、そこから現在の形となりました。
    月は元々『オブジェ』というもので、『作者の意向により、特定の方向からしか光を当ててはいけない』というものでした。このアイデアの一部は三角片に吸収され、残ったものが光の当たらないマスでした。そこで一番イメージに似合いそうなものを考えた結果、太陽を照明に選んでいた為月が選ばれました。
    方向の付いた記号を入力するパズルは中々ないので、もっと発掘されると良いかなと個人的には思います。

  • RBPループ
    《もし、異なる線同士が重なり合ったら》
    ヤジリン系枠として選出されました。最終的にヤジリンの大本が保たれたので、並行世界のパズルの中では変化の少ない方だと思います。
    イデア自体は初期からあったものの、ルールとして纏めるのに難航しました。特に紫線の制御が非常に難しく、最終的に曲折禁に落ち着きました。四隅に切れやナンバーワープもそうですが、緩和と規制のセットというのはバリアントと並行パズルとの境目になりそうな気がします。
    ループ同士が辺を共有するというルールはかなり珍しいのではないでしょうか?個人的に、このルール要素は開拓のし甲斐が有りそうに思えます。

  • ナンバーワープ
    《もし、ワープする場所が分からないとしたら》
    元々ナンバーリンクにもワープゲートを用意するバリアントが存在しましたが、ワープゲートの位置は最初に与えられていました。そこで、ワープゲートの位置を最初に与えないことにしました。
    勿論、それでは自由度が高すぎてパズルになりません。そこで、それぞれの数字を結ぶ線に『縦横一直線』という強力な制約を追加しました。更に、ワープゲートの位置の微調整を難しくする『各行各列1つずつ』という制約を追加し、これをもってどうにかワープゲートを制御できるようになりました。

  • 大団円
    《もし、最後まで辿り着いたなら》
    最後のパズルは言葉のパズルにしようと初めに決めていました。しかし結局、これが一番の難産となりました。
    最終的にシークワーズ風のパズルに落ち着きましたが、本当に紆余曲折有りました。言葉の要素を取り入れるのは本当に難しかったです。
    [余談] 最終問題が解けた方へ。答えの中に、何か気になるものが有りませんでしたか?上手く読み取ってみると……

 

 

4 並行パズル邂逅記の制作後談

10+α(=大団円)種類の新パズルを作る工程は、想像以上に大変なものでした。

面白そうなアイデアが浮かんだと思っても、それをパズルにするにあたって思わぬ困難が待ち受けていたことも多く、実際にそれでボツになった案が幾つも有ります。

幾つかの制約の調整には、多くの時間を費やしました。加算コーナーの六角盤面、~やわけの黒マスの制約、美術回廊の三角片と月……数えだしたらキリが有りません。丁度良い制約というのが、如何に難しいのかを思い知らされました。

と苦労を語りましたが、完成してみると愛着が湧くというもので、楽しい時間でもありました。暫くは学内の方でのパズル制作にシフトしますが、アイデアのストックが溜まったら、続編や別のパズル群も作ってみたいですね。

 

それでは、良い一日を。並行世界よりパズルをこめて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東工大院試体験記

東工大数学コースの院試の体験記です。細かく記述するよう要望が有ったので、記憶の範囲で記します。

 

 

 

 

0 ~6月(1)

時系列としては、第1Qの期末試験期間までです。まずは、院試対策前の私がどんな状況であったかを簡単に説明します。

数学系の授業では、微分方程式関連以外の3年次までの授業の単位を全て取得し、4年次では表現論を学ぶことに決めました。

表現論ゼミの準備はそこそこ大変で、少なくとも土日は確実にゼミ準備に時間を吸われていました。また、3月辺りではこれに加えて連続幾何学の本も読んでいた為、中々のハードワークでした。

この時点で同期の有志が院試対策会を立ち上げていたのですが、私は上の状況でキャパが厳しいと考え、参加しませんでした。(このせいで後々苦労します。)

また、この頃東工大で大学1年程度の数学の質問に答えるバイトをしており*1、それに加えて大学院生向けの講義を幾つか聴講していました。

結局、学生らしいことはしていましたが、院試対策らしいことは何もしていませんでした。このせいで8月が大変なことになるのですが、それは後述します。

 

1 6月(2)

時系列としては、第2Q開始時点にあたります。

表現論ゼミは重たいパートを通り過ぎた所で、授業も序盤なため、僅かに時間の余裕が生まれた所でした。

さて、ここまで院試対策無しは流石にマズいと考えた私は、空いた時間を利用し、参考書を用意して対策することとしました。私は代数系の研究室に所属する為、代数の参考書として『大学院への代数学演習』を購入して演習問題を解くことにしました。

解いてみてすぐに分かったことですが、なんとガロア理論の基礎的な内容がごっそり抜け落ちていることが発覚し、急いで勉強し直しました。

結局、この期間はガロア理論の基礎と、苦手意識が有ったホモロジー代数を学び直すことに費やされることとなります。

 

2 7月(1)

時系列としては、第2Qの授業が本領を発揮し始めた頃です。

ゼミは再び難しめのパートに突入しましたが、6月中にある程度予習を済ませていたおかげで、院試対策をする時間の余裕ができました。

(なお、予習自体は良いのですが、該当の内容を読んだ記憶が時間経過で薄れてしまい、発表本番時に詰まることが若干増えてしまいました。そんな経緯もあり、個人的には失敗だったと思っていますので、あまりお勧めしません。)

ガロア理論の基礎が有る程度固まってきたので、参考書の問題を解くことにしました。――難しすぎる。身体が硬直しかけましたが、仕方が有りません。1問ずつ解説を読んで丁寧に理解することを心掛け、分からない箇所はネットで近隣知識を漁るなどで対処することとしました。

(後で発覚したことですが、この本の問題は難問がそれなりに多く、今の東工大の院試ではまず出ないような難易度のものが多く有りました。)

 

3 7月(2)

時系列としては、院試1か月前にあたります。

参考書の問題のうち、ガロア理論可換環論に関連しそうなものは一通り解き終えました。1ヶ所どうしても分からない箇所が有り、色々あって指導教官に聞いた所、少しの検索時間を経て全く聞いたことの無い定理(と、その証明が書いてある箇所)が返ってきました。指導教官は検索力でも格が違うことを思い知らされた瞬間です。(その定理は、私がネットで調べたときは全く見つからなかったものでした。)

同じ研究室の方の話から、『午後の試験』の形式は分かっていた為、代数の問題が解けなかったときの保険として解析と幾何の専門的な内容を一通りおさらいすることとしました。時間的に幾何は仕上げるのが難しく、最終的に複素解析の基礎的な内容を覚え直すこととなりました。

また、8月中は院試勉強でパズルの制作はできないと思い、8月に投稿するパズルを事前に制作することとしました。*2これも含めて、院試対策以外の重そうなタスクはおおむね片付け、いざ院試対策という状況に持ち込みました。

このとき私は、『午前の試験』という存在について何も知りませんでした。そのせいで危うく致命傷になりかけるのですが、後述します。

 

4 8月(1)

時系列としては、8月開始~院試10日前辺りです。

第2Qの授業が終わり、院試準備としてゼミもこの期間からお休みすることとしました。

さて、私は午前という存在をようやく知りました。説明のために、ここで東工大の数学コースの試験内容を簡単に紹介します。

 

試験は2日(連続した日とは限らないです。今年は1日開けての実施でした)に分かれており、1日目では筆記試験、2日目では口頭試問が行われます。筆記試験は次の3つに分かれています。
午前:大学2年次までの基礎的な内容(5問必答)』
午後:大学3年次以降の専門的な内容(2問選択/7~8問)』
英語:英語で書かれた数学の文章の読解(1~2?問必答)』

このうち午前と午後の過去問が公開されており、院試対策会でもその内容を重点的にやっていたようです。

口頭試問は後述しますが、筆記試験の問題や院での志望分野についての内容を聞かれるようです。(こちらも後述しますが、私は片方だけしか聞かれなかった為、この情報は伝聞で得たものです。)

 

ここにきて、ようやく過去問に着手しました。過去問は問題形式が一番新しい平成31年度~令和4年度の問題を解くことにし、まずはその中で最も古い平成31年度の問題を解きました。

結果は(体感)全完でした。(この年の問題が比較的簡単だったと知るのは後の話です。)

幸運にも、存在すら知らなかったため無対策だった午前が時間内に解き切れました。おかげで、午後の対策に全労力を割くという選択肢が現実的になりました。これで午前の結果がズタボロだったなら、ほぼ確実に致命傷だったでしょう。大学のバイトでの経験が生きたのかもしれません。

これで万事OKだわ(?)、と思った直後、思いもよらない事件が発生するのでした……

 

5 8月(2)

時系列としては、院試10日前~5日前辺りです。

なんと、新型コロナに感染しました。(試験当日5日前よりさらに前の話だったので、運よく院試そのものを受けられない状況からは回避できました。)

酷い高熱にうなされ、食べ物が喉を通らず、思考すらままならない状況です。5年分の過去問も解き切っていない状況であり、暗雲が立ち込めてきました。

薬の効果もあって体調がある程度回復しましたが、それでも過去問を解くのは厳しい状況でした。ですが、いっさい数学をやらないというのも不安です。

そこで、YouTubeで龍孫江様の動画をイッキ見することとしました。これが本当に分かりやすく、参考書の問題と同じ内容もより丁寧に解説して下さっていたので、『初めからこれを見ておけばよかったのでは……?』と思うほどでした。

体調自体は5日の内に回復し、院試にはそれなりの体調で臨めることとなりました。

 

6 8月(3)

時系列としては、院試5日前~前日辺りです。

体調も回復し、残った過去問(新しい方から4年分)を全て解き切りました。必要に応じて、院試対策会で有志が上げていた解答と自分の解答を比べることもしました。

過去問自体はどれも時間内に全完できましたが、近年になるほど難しい(特に午前が)という印象を受けました。また、1年だけ午後の代数で非常に難しい問題が出題され、やむなく複素解析の問題に逃げました。(後で見たところ、代数が一番得意と思われる同期が同じく複素解析に逃げていたので、この判断は正しかったようです。)

過去問も解いてしまったので、後は午前の中では比較的苦手だった位相空間論の復習をMathpediaでしつつ、YouTubeで龍孫江様の動画をひたすら眺めていました。

 

7 試験当日(1日目:筆記)

ここからは、試験の内容も含めてお話しします。

 

当日は緊張で腹痛がしていましたが、何とか大学まで向かうことに成功しました。(もともと緊張で腹痛がするタイプなので、事前に薬を飲んでいました。おかげで、耐えられる程度の痛みに治まりました。)

試験会場が予定会場時刻の30分後くらいまで開かず、暑さで苦しい思いをしました。おまけに、試験会場のマイクは鍵が掛かっていて使えないという状況。きっと、大学側も院試準備で忙しいのでしょうね……。

 

【午前試験 5問必答】

イメージとしてはSASUKE 2nd Stageが近いと思います。基本的な内容のおさらいでは有りますが、1問1問がしっかり考えさせる難易度をしており、しかも時間制限は2時間半とかなり厳しい設定になっています。

特に時間制限との戦いが厳しく、私は文字の綺麗さを捨ててでも説明の分量を確保することにしました。

問題構成は線形代数2問、位相空間論1問、解析2問が標準的なスタイルらしく、例外的な21年度を除けば*3ここ5年はこのスタイルが守られています。

 

1問目:線形代数
一変数正方行列の最小多項式などを求める問題です。
見たことのある問題だったので、記述時間を最小限に抑えて解答しました。簡単な問題だからこそ失点を減らすべきでもあるのですが、午前の解答時間はここに時間を掛けていられない程の厳しさです。

2問目:線形代数
行列のトレースの特徴付けを行う問題です。
少し戸惑いましたが、よく考えたら表現論に関係のある問題であり、『この問題ゼミでやったことある!!』を体感しました。おかげで先に(3)の解答が思い付き、そこから逆算して(2)を解きました。

3問目:位相空間
位相空間論関連の話題が詰め合わさった問題です。
不安だったので、記述量を少し多めに割きました。特に『連続写像による連結な集合の像は連結な集合』を示す場面では、Mathpediaで以前見た証明を元に数行掛けて書いてしまいました。(今考えれば、そんなに費やす必要は無かったと思います。)

4問目:解析
二重積分が収束する条件付けを行う問題です。
(1)は相加相乗平均の不等式と察し、即座に解答しました。(反例も、相加相乗平均で相加と相乗を離すように考えることで、自然に構成出来ました。)高校で競技数学をやっていた経験が生きたのかもしれません。(2)は色々考えた末、最終的にトネリの定理でゴリ押ししました。

5問目:解析
関数の一様連続性と有界性に関する問題です。
(2)の証明に手間取り、方針は纏まったものの少し長くなってしまったため、説明をより明瞭にしようと、余白に証明途中の簡単なイメージ図を載せました。

 

どの問題も方針が立つのにそこまで時間が掛からなかったので、問題番号順に解きました。しかし、全て解き終わった頃にはもう残り時間が15分を切っていました。驚きましたが、この難易度で全問解けたなら上出来だろうと思うこととしました。

 

【午後 2問選択/8問】

用意していたエネルギー補給用のゼリー(と胃腸薬)を飲み、午後に臨みました。

午後の問題は8問中2問を選択と、かなり選択の余地が有るように見えます。しかし実際は8問中に代数の問題は2問しかなく、選択の余地はほぼありません。それでも2問の内に超難問が潜んでいたときのために、複素解析1問を解くという裏択が有りますが、本当に最終手段です。

一方で、解答時間は2時間と、それなりに余裕が有ります。この余った時間を午前に回せるようにしてほしかったです……。

因みに、私は『位数2023の群はアーベル群であることを示せ』という問題が出るかもしれないと思って張っていたのですが、見事に外しました。

 

1問目:環論
与えられた環に対して、条件を満たすイデアルを探す問題です。
最初は局所化とイデアルの可換性……?などと難しく考えてしまいましたが(※まるで関係無かったです)、落ち着いて考えれば上手い代入写像を取るだけの問題でした。

とはいえ初手で困惑してしまった為、この問題は一旦後回しにして2問目を先に解くこととしました。このことも有り、解答を一度書き直す羽目になりました。

2問目:ガロア理論
(1)はガロア群の生成元と関係式を求める典型問題で、難なく解けました。意気揚々と(2)を眺めて、私は硬直しました。
――なんでしょう、これは。テンソルして直積代数と同型……?

必死に代数学の講義の内容を思い出し、それらしい解答をひねり出しました。恐らく、実質的には与えられた体の5次以下の部分体を求めるだけなのですが、その『実質』の理由は分からず、誤魔化して書くしか有りませんでした。

後で他の同期と講義資料を振り返ってみたのですが、その全員が『実質』をしっかり書けていなかったという結論に達したので、出来る限りで最良だったと思います。

 

他の問題については、専門外なので省略します。(5問目の複素解析が小問×3で全て証明とやや面倒に思えたのですが、解析の研究室の同期曰く、今年の解析は5~8問目のどれも簡単だったそうです。なお、残りの3・4問目は幾何の問題です。)

 

【英語 1問必答】

辞書持ち込み可ということで数学英和・和英辞典を持ち込んだのですが、直前になって『普通の』辞書しかダメと言われ、辞書なしでの受験を余儀なくされました。

(そんな制限は何処にも書いていなかったと思います。理不尽。)

とはいえ問題自体は易しく、Latticeが束ではないという一点を除けば比較的解きやすかったのではないでしょうか。(※太字部分に関しては完全に私個人の感想です。)

 

8 試験当日(2日目:面接)

今年度の面接はオンラインでした。本だらけで散らかっていた部屋を整えつつ、試験に臨みました。

試験前は筆記試験の問題の解き直しと、大学院に入ってやりたい分野についてのアピールを用意していました。筆記試験の問題についてはその答案や出来について聞かれたりするとの情報だったので、午後の問題2のきっちりした理由付け等を用意しました。

また、大学院に入ってやりたい分野のアピールでは、ネットで幾つか論文を漁って、その概要だけでもとにかく読んでみることとしました。

さて、当の面接では筆記試験については何一つ聞かれず、院で学ぼうとしている表現論について幾つか聞かれました。緊張しすぎていたせいか、割と簡単な内容をミスしてしまいましたが、試験自体は短時間で終わりました。

こうして、私の院試は終わりました。(他の大学の院試を受験することは負担が大きすぎると考え、東工大一本に絞っていました。)

ミスが心残りでしたが、試験の手応え自体は充分に有ったので、あとは天命に任せることとしました。

 

9 振り返り

つい先日、第一志望の研究室への所属が決定しました。嬉しい限りです。

これから数学コースの院試を受験する後輩の方々に、私が院試を受験する中で感じたことをいくつか紹介します。

  • 体調は万全に
    私は試験と同じ月に病気、当日には腹痛と、本当に体調があまり良くない中の受験となってしまいました。試験において体調不良はデメリット以外の何物でもない(院試に追試は存在しない)ので、体調はなるべく万全の状態で挑めるようにすることをお勧めします。
    なお、院試によるストレスで身体に不調が起こる場合が有る(実際に私がそうでした)ので、院試が終わった後はしっかりと療養しましょう。

  • 午前は時間勝負
    特に近年は難化傾向にあり、時間内に全問を解き切るのは中々厳しいという状況です。すぐに解けそうにない問題は、早めに後回しすることをお勧めします。また、位相空間論の話題はMathpediaが詳しいので、試験前におさらい代わりに閲覧するのもお勧めです。

  • 午後は実力勝負
    一方で午後は時間にそこそこ余裕が有るので、純粋に専門の内容を理解しているかが問われます。この辺りは過去問を解く等で経験量を増やせば、カバーは厳しくないと思います。代数分野の方は、先述した龍孫江様の動画もお勧めです。

  • 最終手段は複素解析
    しかし、それでも難しい問題が出るときは有ります。その場合は、複素解析の問題が比較的取りやすいです。最低限、留数定理や実関数への積分の応用例を覚えておくと役立つと思います。

  • 英語はなんとかなる
    本当に(辞書なしでも)なんとかなるので、緊張しないで臨んで下さい。試験の出来も、流石に悪すぎるとアウトですが、良い分にはどれだけ良くても評価は変わりません。

  • 面接は焦らず誠実に
    面接官は、数学のプロの方々の集りです。小手先のトリックだとかけむに巻く言い方だとかはまず通用しないので、正直に答えた方が吉だと思います。その場で考えても答えが出ないであろう質問が来たら、堂々と『分かりません』と答えて良いと思います。*4それで駄目なら、私は落ちています。(2回以上は使いました。)

  • 最低限覚えておくべき定理・事実の方々
    ◇ フビニ・トネリの定理
    多重積分でお世話になる定理です。存分に使っていきましょう。
    ◇ 優級数定理
    関数列の収束は十中八九これです。優級数定理そのままではなくとも、特殊な形として適用するケースも多く出題されます。
    ◇ 最小多項式の求め方
    固有多項式を割り切る、どの固有値も根に持つ等です。
    ◇ 連結・コンパクト・ハウスドルフの特徴付け
    見たことが有るだけでも、アプローチの仕方が増えます。
    ◇ (代数) Sylowの定理
    群の分類でお世話になる定理です。勿論、ガロア理論でも存分に活躍できます。
    ◇ (代数) ガロア拡大の特徴付け・ガロア理論の基本定理
    頻出です。ここを押さえておくと確実に点が取れると思います。
    ◇ (複素解析) 留数定理と実積分への応用
    複素解析に逃げる選択肢を用意する場合は、最低限押さえておきたいです。

  • 同期の力を借りる
    同じ研究室の同期や、代数がずば抜けて良く出来る同期には、何度もお世話になりました。本当に感謝します。
    また、内部生であれば同期の院試対策会に参加することも有効です。

  • 先輩や先生の力を借りる
    それでも分からない箇所は、数学相談室に質問しに行くか、教員に直接質問することで解決できます。

  • Latticeと言えば束のこと
    ……どこでLatticeを見ても『格子』の方であることが多くて悲しいです。

 

以上、ご参考になりましたでしょうか。

それでは、良い一日を。そして、願わくば良い報せを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:時給はそこまで高くないですが、質問が来ない限りはゼミの予習などをやっても良いという寛容な職場なので、繫忙期でない限りはかなりゆったりできます。

*2:並行パズル邂逅記もこの期間までに制作しています。

*3:新型コロナの影響でオンライン試験となり、問題数と解答時間が減少しました。

*4:答えを求めるのであれば、その後により詳しく段階的に聞くだろうと思います。

並行パズル邂逅記 終章

11.    大団円


そこは、雲の中のような景色。白で囲まれた幻想的な景色。
ここが、世界の境界線であるらしい。
「ここに、元の世界への扉を開く、『最後のパズル』が有るはずです」
その言葉を信じ、二人で歩き続ける。程なくして、地面に落ちているパズルを見つけた。
しかし、それを見た私は一瞬の思考の後、驚愕することとなる。
――自分が読める文字。これはアルファベットではないか。
そしてその隣では、デコがアルファベットを神妙な面持ちで眺めていた。
「これは、文字なのでしょうか……私には分かりません」
そして、もう1つおかしな箇所が有る。
「この右の図は、解答でしょうか?何故、問題のすぐ隣に有るのでしょう……」
そこで、私はさらに先に問題が浮かび上がっていることに気付く。
そこにも似た様な図が有るのを見て、私はあることを悟った。
――この出題の仕方は、Instructionlessに違いない。

 

Instructionlessは、例題とその解答からルールを推測し、それを元に与えられたパズル群を解く形式である。例題には与えられた解答以外の解答が無いという一意性も有り、ここからルールが導けることも多い。
その性質上、どんなパズルが出題されるかは、実際に見てみるまで分からない。解答方式すらバラバラなことが殆どである。

《例題/例題の解答》

元の世界の言葉を用いているが、説明らしきものがない。この世界の住人であるデコがルールどころか、パズル名すら解読できない。それはつまり、説明そのものが存在しないことを指すのだろう。
奇妙なものだ。境界線にあるパズルは、両方の世界の住人にとって『平等』らしい。
元の世界に戻る為、最初で最後の解読作業が始まった。

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The Final Puzzle

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――終わった。これが本当に、最後なのだ。息が漏れ、力が抜けていく。
「――おめでとうございます。お客様とは、ここでお別れのようです」
デコの姿が、いや視界に映る全てが、薄くなっていた。光に溶け込んでいく。
「お客様は、私の名前のデコがどういう意味なのか、御存知でしょうか?」
知らない、と答える。結局、ここまででデコの正体は謎のままだった。
「離れていった、共に有ったもの。それが、私の名前の意味だそうです。
どうしてこんな名前になったのかは、忘れましたが――これだけはずっと、覚えています。
ここは、有ったかもしれないパズルが埋もれる場所。いろいろなアイデアの繋ぎ違いで生まれなかった、そんなパズルが飾られる場所。
近くにあるのに、何処にもない――そんなパズルが住まう場所なのです。
良い体験が出来ましたか?ここの住人として、楽しんでもらえたなら幸いです」
ありがとう、その一言が最後の言葉になった。
全ては白い光に覆われ、意識すら失われていった。


目を覚ますと、見覚えのある画面が目の前に有った。そして、目の前には昨日解き終わったパズル。
――あの体験は夢だったのだろうか?それにしては妙に現実味が有り、そしてはっきりと記憶に残っている。
並行世界のパズル。それはもう、近くにはないが、確かに何処かに有ったのだ。

四隅の数字を合計すると面積になる、四隅に切れ。
様々な情報で出入りする線を表す、Castle Walker。
角の黒丸に合計を合わせる、加算コーナー。
蛇によって部屋を指示通りに分ける、~やわけ。
数字がその上のループの面積を表す、フェンスミノ。
1~8マスの領域1つずつに分ける、ハニーテリトリー。
銀河内の星の配置を対称にする、対称星。
鏡台を配置して月以外を照らす、美術回廊。
赤と青が重なり合って紫になる、RBPループ。
ワープゲートで同じ数字同士を結ぶ、ナンバーワープ。

そして、最後のあの、Instructionlessという覆面を被った、名前の無いパズル。
ループを描き、言葉を繋ぐ。そんなパズルだった。そのとき、とある単語が浮かび上がる。

――『大団円』。

きっとあのパズルには、この名前がふさわしいであろう。

 


Fin.

 

 

 


作品内に登場する全てのパズルは、今や現実に存在するパズルです。
これからは、あの世界に入らずとも、出会うことができるでしょう。
それでも、もっと沢山の、近くにあるはずのパズルを知りたいのであれば……
きっとあの奇妙な住人たちが、夢の中へと会いに来るでしょう。

並行パズル邂逅記 第10章

10.    光の通ずる旅路


僅かなランプで照らされた、洞窟の中。1問の小さなパズルが、私たちを出迎えていた。
4×4の盤面の中に、幾つかの数字が記されている。
「これもパズルでしょうか?ルールが掴めません……」
デコの手助けになればと思い、私は似たパズルを考える。盤面にどの数字も2つずつ有るという特徴を見出し、とあるパズルに行き着いた。ナンバーリンクだ。

 

ナンバーリンクとは、同じ数字同士を線で繋ぐパズルである。
線はマス目の中央を通るように縦横に引き、また異なる線同士は共有点を持たない。数字は識別の意味だけであり、非常にシンプルなルールのパズルといえるだろう。ハニーアイランドと同様に、このパズルもまた直感寄りと評価されやすいパズルである。
なお、暗黙の了解として、全てのマス目を線が通るという『決まり』が有る。

 

しかし、目の前の問題がナンバーリンクではないこともまた確かであった。このままでは2同士をつなぐ方法が存在しない。
「うーん、読み取れませんね……何かキーワードが有れば良いのですが……」
同じ数字同士を繋ぐ以外に、何が有るのだろう。それを知るには、このパズルの意味を考えるのが一番近いかもしれない。ここは旅の終盤。この世界と元の世界を繋ぐ為の場所。
異なる2つの世界を繋ぐもの――そう考えて、私はとある言葉に辿り着く。『ワープ』だ。この2同士を繋ぐ為には、何処かで線をワープさせる必要が有るのだ。
「有難う御座います…お客様のお陰で、ルールが読み解けました。
このパズルの名前は、ナンバーワープです」
好き勝手にワープ出来る訳でもないのだろう。その制約は、デコに教えてもらう必要が有る。

《例題》

「只今、解読が終わりました。

ルール1:盤面に幾つかの円(=ワープゲート)を描き、更にマス目の中央を通るように縦横に線を引きます。ワープゲート同士は、2つずつの対を成します。
ルール2:線は同じ数字同士を繋ぐように結び、途中で曲折しません。
但し、線がワープゲートに重なった場合、その対となるワープゲートから進行方向を変えずに線が出ます。
ルール3:ワープゲートは各行各列に1つずつ配置します。また、数字の有るマスには配置しません。
ルール4:異なる線同士は、ワープゲート以外で共有点を持ちません。


ここに来て初めて、各行各列に1つずつという比較的スタンダードな制約を見かけた。思えば、風変わりなパズルばかり解いてきたものだ。その体験も、もうすぐ終わってしまう。
目の前のパズルに向き合う。並行世界のパズルたち――『並行パズル』に、お別れを告げるときが来る。

 

《ワープゲートの記号は、記号→円→Circle_Mの1番目(パネルの一番左上にある白丸)で判定します。
また、どのワープゲート同士が対応するか記入する必要は有りません》

《このパズルはPuzzle Squareへの登録の際に、ルール1が僅かに緩和(一度も通らないワープゲートは対を成さなくても良いように変更)されました。
なお、この修正により解答に変更はありません。》

Sample

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《例題の解答/解答のイメージ図》

 

 

解き終わると、目の前に大きなトンネルが現れた。その中をデコと共に通ると、ほどなくして次のパズルが待ち構えていた。やはり、これは例題だったのだ。1問解くごとに次のパズルが現れるらしい。
目の前のパズルが、私には門番に思えた。立ちはだかる問題を、突破するときだ。

Q1

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Q2 《08/29公開》

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Q3 《08/30公開》

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全てを解き終えた。ふと振り向くと、デコの身体が心なしか薄まって見える。心配に思って声を掛けると、デコはか細い声で返事をした。
「心配いりません、お客様…まだ案内人の仕事は、終わっていないようです」
そのとき目の前に、真っ白なトンネルが現れた。向こう側には、光が見える。
「では、行きましょう。この旅の終着点へ」
きっと、この道は戻れないのだ……一歩一歩を踏みしめて、私は歩き出した。

並行パズル邂逅記 第9章

9.    交わる色、離れ行く世界


私とデコは、地図の通り太陽の方角へと向かっていた。デコによれば、もうすぐ終着点が見えてくる距離になっているらしい。
それにしても、この世界は色彩で飽きさせない。普段パズルを眺めていても、白と黒、せいぜい薄黄色か薄緑色くらいしか見かける色が無い。それはパズルというものの1つの完成されたデザインであり、私も実際にこの無機質な感じが好みだ。だが、たまにはそうでないものが有ったって良い。
何でそんなことを思ったのか、ひとえに私がこの世界に愛着を感じてき始めたからであろう。もうすぐ旅が終わるというのが、実に名残惜しい。
「この世界がこんなに生き生きしているのは、久しぶりです。旅は、楽しいですね」
デコが空を眺めながら呟く。そこには、いつの間にか虹が掛かっていた。その模様を見て、ここでも光は7色なのかと妙に感動する。
そうした矢先、大地が騒ぎ出した。突如として現れる模様を、私とデコは即座にパズルであると理解した。
そして、そのパズルには、そしての色付きのパネルが有った。
「これは……単なるデザインなのでしょうか?赤+青=紫という関係性が見えます」
色がデザイン以外に関わるパズルといえば、1つ知っているものが有る。R・Bループだ。

 

RBループは、盤面に2色のループを描き、残ったマスを黒く塗り潰すパズルである。
黒マスは隣り合わず、矢印の手掛かりはその方向にある黒マスの数を示す。ここはヤジリンに似ている。
特徴的な点として、それぞれのループは自己交差せず、また辺を共有しないが、他方と交差することはできる。そして、赤・青・紫のマスにはそれぞれ赤だけ・青だけ・両方が通る(つまり紫はお互いが交差する)。
但し、これらの色付きのマスは黒く塗り潰される可能性が有り、その場合その色の手掛かりは無効となる。

 

さて、このパズルを見てみよう。デザインは全く同じだが、この盤面はR・Bループでは有り得ない。左上の紫は近くの手掛かりマスが邪魔で交差できず、従って黒マスとなる。しかし、そうなると手掛かりの0に矛盾する。やはり、少しルールの違うパズルなのだろう。
「お客様…こちらのパズルはRBPループという名前のようです」

Pという文字が出てきた。R・Bループの変種にRGBループというのが有り、こちらはGがGreenを表す。では、Pとは……

《例題》

「少々長いですが、お付き合い下さい。

ルール1:盤面に赤と青のループを1つずつ描き、残ったマスを黒マスで埋めます。
ルール2:黒マスは隣り合いません。矢印付きの数字は、その方向にある黒マスの数を表します。
ルール3:ループは、自己交差や他方との交差をしてはなりません。
ルール4:ループ同士は辺を共有できます。このとき、双方の線が互いに反対方向から出会い、出会った方向と垂直な方向に紫の線として伸びます。線が分かれるとき、双方の線は出会ったときと同じ方向にそれぞれ進みます。
ルール5:紫の線は曲折しません。
ルール6:色付きのマスは、その色の線だけが通ることを示します。色付きのマスを黒マスにしたり、そのマスの上で赤と青の線が丁度出会ったりしてはなりません。


つまり、色付きマスは黒く塗り潰されず、赤と青は交差しないが出会って一本のまっすぐな線になることがある、ということだ。
それが分かれば、後は解くだけだ。色の出会いと別れを、この盤面に記していこう。

 

《仕様上、解答は全ての線を緑色にすることで判定されます。
赤や青等の色を使った線は、基本的に判定されませんのでご注意ください》

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《例題の解答/解答のイメージ図》

 

例題が解け、祝福のように風が流れる。足が持っていかれ、ふらついた先に新しいパズルが有るのを見つける。大地のご機嫌を取るには、もう少し付き合う必要が有りそうだ。

Q1

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Q2 《08/26公開》

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Q3 《08/27公開》

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2つのループの出会いと別れの様子が、全て描かれた。達成感は、何処か切なささえ覚える。私とデコの間を流れる、無機質な風の音。私は暫く、声を発せずにいた。
そのとき、再度大地が騒ぎ出す。今度は、とうとう地面が割れた。そこには今や、地下へと通ずる階段が出来上がっていた。
「――この先のようです。ご一緒しましょう」
一段一段下る度に、心臓の音が静まっていくのを感じていた。再び世界は、闇に包まれる。