8月に並行パズル邂逅記を公開してから、はや3ケ月が経過しました。多くの反響をいただき、並行世界の住人もきっと喜んでいることでしょう。
今回は、そんな並行世界について、語りそびれたことをほんの少しですが語ります。
1 なぜストーリーを加えたのか
最初に述べておきたいのは、私が物書きとしては本当に素人であるという点です。それでもストーリーを加えた理由は大きく分けて2つ有ります。
1つ目は、並行パズルと既存のパズルとの比較をすることです。ストーリー中には既存パズルが多く記されていますが、これらとの比較により並行パズルの立ち位置を明確にしようと思いました。
並行パズルは既存のパズルにはない新しい要素を持っていますが、その一方で既存のパズルから外れ過ぎないようにもしています。Castle Walkerを例にすると、このパズルはCastle Wallとはかなり離れたパズルですが、『シンプルループを描く』『数字は線の長さと対応』『デザインは大きく類似』と共通点も残っています。
これらの内容を語る形式として、ストーリー中での記述が採用されました。
2つ目は、例題の解答を画像で載せることです。ルールの理解には、例題とその正解盤面を提示することが有効であろうと考えました。しかし、現状のPuzzle Square JPでは画像付きのコメントは予約投稿に入れられず、また例題の隣に直接解答を配置する方式もやや遠回りかつ、その問題を解答図を見ずに解くことができなくなります。
そこで、ブログで例題とその解答を予約投稿する形式を採用しました。サムネイル用として、解答のイメージ図もついでに作成しました。
2 ストーリーFAQ
『現時点で』お話しできる内容だけ載せます。
- デコが読める文字と読めない文字は?
基本的に、並行世界間ではお互いの言語は通じません。
しかしデコは案内人なので、特別に異なる言語間でも会話することができます。
ですが、並行世界以外の文字は話せても読めません。デコが説明するのは並行世界のパズルのみであり、それ以外の世界の文字を読む必要がないからです。
今後別の案内人が現れた場合も、恐らくは同じ特徴を持つでしょう。 - 『空から現れた大きな窓』とは?
Parallel Universe II というパズルコンテストのことです。
本企画のインスパイア元でもあります。
作中に登場した『Akichiwake』というパズルは、このコンテストが由来です。 - デコ以外の住人は居るの?
居ますが、並行世界内でも会話することは難しいでしょう。
『それら』と言語が通じ合うことは稀です。
―――パズルは寡黙なのです。 - 並行世界のパズルと、元のパズルとの関係は?
並行世界のパズルは現実世界の似たパズルとある程度紐づけられており、似たパズルを挙げることでそのパズルの内容が分かることが有ります。
特に後半では、この現象が顕著になっています。 - デコの名前の由来は?
英語の接頭辞 de-『離れて』、co-『共に』を合わせたものです。
幾つか案は有りましたが、音の響きが良いのでデコに決めました。
3 各パズルの制作後談
- 四隅に切れ
《もし、複数の数字が長方形の中に入っていたら》
先陣を切ってもらうに相応しいパズルとして選びました。
原案自体は数か月前に大学のパズル同好会での活動中に作成したもので、デザインなどの変更を経て出題に至りました。
何も説明していませんが、Q2から負の数が登場しています。この様な『説明では特に触れられていないが、容易に誤解なく推測できる要素』がもう少し織り交ぜられると良かったとも思うのですが、難しかったため断念しました。
アフターストーリーでは『?』が追加されました。?は1以上の整数を表すもので、『-?』となれば-1以下の整数となります。 - Castle Walker
《もし、数字と色がそのマスを通る線に対応していたら》
ごちゃ混ぜ感のあるパズルですが、どの手掛かりもうまい具合に絡められるので制作は意外に楽でした。有向ループは非常に制約が強く、やむなくリフレクトリンクの十字マークを採用しました。結果的に十字マークを絡めた手筋が生まれたので、意外と有向辺と線の交差とは相性が良いのかもしれません(既存のパズルでは、アイスバーン系もこの両方を取り入れていると言えます)。
このパズルは手掛かりによって趣向の凝らし方を様々に変えられるのが、大きな強みと言えそうです。 - 加算コーナー
《もし、全体制約が変なキラー数独が有ったら》
難産でした。数字配置系では数独が非常に強く、少しの違いでは数独のバリアントとしての側面が強くなってしまいます。そこで、数独からイメージを大きく離すために六角盤面など特殊な要素を多く取り入れました。
今回唯一の数字配置系でしたが、なかなか面白いパズルが作れそうなルールに仕上がったと個人的には思います。
個人的には、サイズによって解き筋が大きく異なりそうだと感じています。特にN=5,6の小サイズでは、1を全て置くのがなかなか難しいです。
[余談] 略称はどうしましょうか。カッコー?うーん…… - ~やわけ
《もし、数字が部屋内の各領域の面積を表していたら》
こちらは加算コーナーを凌ぐ難産です。このパズルは『各部屋の数字の手掛かりで、その部屋内の黒マスの塊の面積を1つずつ表出する(※そのため、黒マス隣接禁は除く)』というアイデアだけがあり、そこからへやわけの要素『3連禁』を入れようとするも、黒マスの制約が弱すぎて断念しました。
幾つか強い制約を試した結果、ヘビが一番上手くいったのでヘビにしました。更に表出する数字は白マスの方が面白いと思い、現在の形になりました。
最終的にはAkichiwakeに近い形となりました。並行世界リスペクト。 - フェンスミノ
《もし、同じ面積の領域同士を大きく離す必要が有ったら》
中々雰囲気が掴みにくいパズルだと思います。初めはフェンス同士は点だけでも接してはいけなかったのですが、流石に制約が強すぎた為緩和しました。
後で気付いたのですが、チェンブロというパズルが割と近いです。同じ面積の領域を大きく離すという意味では、るっくえあも近いでしょうか。
アフターストーリーではデザインを一新し、より解きやすくしました。このパズルはまだまだ成長のし甲斐が有りそうです。
ルールはやや複雑ですが、チェンブロとの差別化も考えて据え置きしました。その代わり、より分かりやすい表現に変更しました。
また、複数の方からご意見を頂き、マスの中央と格子点とを入れ替えました(それに伴い、ルール文の一部の内容が変更されています)。 - ハニーテリトリー
《もし、ハニーアイランドにより明確な理詰め要素を加えるなら》
意図して『6番目』に置きました。理由は言わずもがな。
今回のパズルの中では、一番バリアントらしいパズルだと思います。本当はもう少し理詰め要素を増やしたかったのですが、フェンスミノや美術回廊などのルール多め群が多すぎてもいけないと思い、分かりやすさを優先させました。
私はハニーアイランドの直感的な解き方が苦手で、そのためハニーテリトリーの問題はある程度の理詰めができるようにしてあります。それでも一意解性の確認には苦労しました。ツールは本当に偉大ですね……。 - 対称星
《もし、銀河の中心が分からなかったら》
白黒なのにデザインの主張が激しいパズルです。夜空が綺麗ですね。
ルール自体は単純ですが、初めは☆1つの銀河を許容していた為、カオスでした。☆2つ以上という制約のお陰で、かなり纏まったのではないでしょうか。
なお、アフターストーリー追加に当たって2つルールを追加しました。
『線が星を横切ってはならない』『銀河に穴が開いてはならない』です。
前者はアフターストーリーの問題をご覧下さい。後者は大きな銀河を作ろうとしたときに、中央に穴を開ける別解が出てきてしまうのを防ぐ狙いです。 - 美術回廊
《もし、直角三角形が光を反射したら》
シャカシャカのあの三角を取り入れたいという挑戦作です。
リフレクトリンクから『鏡台』というアイデアを思いつき、そこから現在の形となりました。
月は元々『オブジェ』というもので、『作者の意向により、特定の方向からしか光を当ててはいけない』というものでした。このアイデアの一部は三角片に吸収され、残ったものが光の当たらないマスでした。そこで一番イメージに似合いそうなものを考えた結果、太陽を照明に選んでいた為月が選ばれました。
方向の付いた記号を入力するパズルは中々ないので、もっと発掘されると良いかなと個人的には思います。 - RBPループ
《もし、異なる線同士が重なり合ったら》
ヤジリン系枠として選出されました。最終的にヤジリンの大本が保たれたので、並行世界のパズルの中では変化の少ない方だと思います。
アイデア自体は初期からあったものの、ルールとして纏めるのに難航しました。特に紫線の制御が非常に難しく、最終的に曲折禁に落ち着きました。四隅に切れやナンバーワープもそうですが、緩和と規制のセットというのはバリアントと並行パズルとの境目になりそうな気がします。
ループ同士が辺を共有するというルールはかなり珍しいのではないでしょうか?個人的に、このルール要素は開拓のし甲斐が有りそうに思えます。 - ナンバーワープ
《もし、ワープする場所が分からないとしたら》
元々ナンバーリンクにもワープゲートを用意するバリアントが存在しましたが、ワープゲートの位置は最初に与えられていました。そこで、ワープゲートの位置を最初に与えないことにしました。
勿論、それでは自由度が高すぎてパズルになりません。そこで、それぞれの数字を結ぶ線に『縦横一直線』という強力な制約を追加しました。更に、ワープゲートの位置の微調整を難しくする『各行各列1つずつ』という制約を追加し、これをもってどうにかワープゲートを制御できるようになりました。 - 大団円
《もし、最後まで辿り着いたなら》
最後のパズルは言葉のパズルにしようと初めに決めていました。しかし結局、これが一番の難産となりました。
最終的にシークワーズ風のパズルに落ち着きましたが、本当に紆余曲折有りました。言葉の要素を取り入れるのは本当に難しかったです。
[余談] 最終問題が解けた方へ。答えの中に、何か気になるものが有りませんでしたか?上手く読み取ってみると……
4 並行パズル邂逅記の制作後談
10+α(=大団円)種類の新パズルを作る工程は、想像以上に大変なものでした。
面白そうなアイデアが浮かんだと思っても、それをパズルにするにあたって思わぬ困難が待ち受けていたことも多く、実際にそれでボツになった案が幾つも有ります。
幾つかの制約の調整には、多くの時間を費やしました。加算コーナーの六角盤面、~やわけの黒マスの制約、美術回廊の三角片と月……数えだしたらキリが有りません。丁度良い制約というのが、如何に難しいのかを思い知らされました。
と苦労を語りましたが、完成してみると愛着が湧くというもので、楽しい時間でもありました。暫くは学内の方でのパズル制作にシフトしますが、アイデアのストックが溜まったら、続編や別のパズル群も作ってみたいですね。
それでは、良い一日を。並行世界よりパズルをこめて。