Solyuの気まま日記

Solyuの思ったことや考えたことをまとめます

境界ではない太線の扱い

この記事は ペンシルパズル Advent Calendar 2023 - Adventar の12日目の記事です。

 

パズルでは、初めから盤面が太線で区切られ、幾つかの領域に分かれていることが有ります。

代表的なものは、数独へやわけでしょうか。これらのパズルでは領域に依存したルールが存在し、それぞれ『どの領域内にも1~9が1つずつ』『縦横1直線に3領域以上を白マスが横断してはならない』という形で組み込まれています。

しかし、太線をでたらめに引いても綺麗に領域分割できるわけではありません。引き方によっては、領域分割に関係しない太線が残ってしまうことが有ります。

Q. これらの非境界線(境界ではない太線)は、ルール上どう扱われるか?

これに対し、幾つかの解釈が用意されてきました。その先例を見つつ、この問題について議論していきましょう。

 

1 スイッチ ~領域にギミックを関連付ける~

まずは、 "Cross Border Parity Loop" を見てみましょう。

www.gmpuzzles.com

 

リンク先の問題では初めから非境界線が有り、その扱いについては括弧付きで明確に記されています。話の都合上、まずは境界線だけの状況だとしてルール文を解釈した上で、元のルール文について考察しましょう。

さて、非境界線が無い状況(以後、『通常モード』と呼称)を考えます。
ルールのうち領域に関する箇所を挙げると、次の通りです。

  • 数字は、その領域内にある特定色のループ線の長さを表す。
  • ループ線境界線をまたぐと、線の色が変わる。

さて、早速前者について見てみましょう。この問題での扱いは『非境界線を無視する(=どの領域に属するかだけを参照する)』というものです。今後、このように非境界線を無視する解釈を、自明な解釈と呼ぶこととします。

一方で、後者を見てみましょう。このルールでは境界線はスイッチの役割を果たし、通る度にループ線の色が変わります。そして注釈はこの場合に触れており……なんと!非境界線でもまたぐと色が変わるのです。

別の見方をすれば、次のように言い換え出来ます。

  1. ループ線は、スイッチを踏むたびに色が変わる。
  2. スイッチの場所は全て示されている。
  3. (作問上の制約として、)境界上には必ずスイッチを置く。

つまり、本来は領域とは独立したギミックであるスイッチを、境界上に必ず置くという作問上の制約によって領域と関連付けたと言えます。

この解釈は『境界をまたぐ』系の文言がルール中に有る他のパズルでも主流であり、たとえばへやわけでは次のようにルールを拡張して非境界線にも適用しています。

 旧:縦横で連続する白マスが3部屋以上を横切ってはならない。
 新:縦横で連続する白マスが太線2本以上を横切ってはならない。

 

2 キレコミ ~領域内の連結性に干渉する~

続いては、カントリーロードを見てみましょう。

www.nikoli.co.jp

 

通常モードでルールのうち領域に関する箇所を挙げると、次の通りです。

  • 数字は、その領域内でループ線が通るマス数を表す。
  • ループ線が通らないマスは、境界線を横切って隣り合わない。
  • どの領域も、丁度1回ずつ通る。

これを非境界線に拡張するとどうなるか、今回はPuzz.link(有志によって開発されている、ペンシルパズル専門のツール)での扱いを例に見ていきましょう*1

puzz.link

 

1番目ですが、これはCross Border Parity Loopと同様に無視されます。『領域内』とある際は、この様に自明な解釈が取られることが多いようです。

2番目ですが、これは元のルール文で『太線』と記述されており、実際に非境界線であっても両側どちらも通らないとルール違反として検知されます。
前の項目に倣えば、『両側が白マスになってはいけない』というギミックを、境界線上に必ず置いているとも言い換えられます。

さて、問題は3番目です。こちらは次のように解釈されています。

  1. 領域内で、ループ線はひとつながりになっている。
  2. 非境界線は領域内の切れ込みとして作用する。つまり、各領域内のループ線は、非境界線をまたがずにひとつながりになる必要が有る。

結果的に、ループ線は非境界線をまたぐことができません。例外として、1つの部屋から一度も出ないケースのみ、その部屋内で1度だけ非境界線をまたぐことが許されます。

この手の『2度同じ領域に入ってはならない』ルールは、オールorナッシングや月か太陽などのパズルにも見られ、そこでも同じ解釈が為されています。

 

別の例として、Kaisuを見てみましょう。

puzz.link

 

通常モードでルールのうち領域に関する箇所を挙げると、次の通りです。

  • どの領域も、道(SからGへの向きが有る線)がその領域を通るのがN回目のとき、◯を通るのであればN個ちょうど通る必要が有る。

では、道が非境界線をまたぐとどうなるのでしょう。結論から言えば、次のように解釈されます。

  • その時点で通った◯の個数を参照し、ルール違反か判定する。
  • その領域を今までに通った回数が+1される。

つまり、一旦出た後すぐに入り直したものとして扱うということです。スイッチとして解釈すれば、次のようにも言い換えられます。

  • 出る側の◯のカウントを止め、通った◯の個数がルール違反か判定する。
  • 入る側のNを+1し、◯のカウントを新たに始める。

この仕様が面白かったので、1問制作してみました。比較的難しめですが、宜しければご覧下さい。

puzsq.logicpuzzle.app

 

なお、Rassi Silaiではそもそも緑線が太線を横切れないようになっています。これは、仮にカントリーロード方式で解釈したとしても、横切った太線の両側が緑線の端となってルール違反になってしまうからだと思われます。

 

3 ノリシロ ~同じ領域同士の境界線として見る~

次は、ワンルームワンドアを見てみましょう。

puzz.link

(ニコリ発祥のパズルですが、ニコリ公式でのルール説明のページがインターネット上に見当たらなかったため、孫引きさせて頂きます)

 

通常モードでルールのうち領域に関する箇所を挙げると、次の通りです。

  • 数字は領域内の黒マス数を表す。
  • 白マスはその領域内だけを通ってひとつながりになる。
  • どの2領域を取っても、その境界線の中で両側が白マスになるものは最大で1つである。

このうち1番目のルールは領域内の条件であり、自明な解釈がされます。

2番目はキレコミの解釈がされ、『その領域内だけを通って→太線を横切らないように通って』となります。

3番目は少し特殊な解釈で、2領域に同じ領域を取ったときの『境界線』をその領域内部の太線として解釈し、その上で判定しています。

この解釈を『ノリシロ』と名付けましょう。すると、今までの内容を非境界線ではなく境界線として解釈できます。つまり、ある領域の境界線に、その領域内の非境界線も新たに含めてしまうということです。

線の出入りを『境界線を横切ること』と再定義すれば、KaisuのNなどもノリシロとして再解釈できます。

 

4 ツイタテ ~通せんぼのギミック~

キレコミと似て非なる解釈に、ツイタテが有ります。『非境界線を横切ってはならない』というルールを追加するという解釈です。

言い換えれば、非境界線を囲う薄い領域を作って、それを盤面から取り除いてしまうとも言えます。

汎用的に思えますが、境界線と非境界線とで扱いが異なるというのが余り受けが良くないようです。ツイタテは『非境界線のときのみ障害物となる』ギミックですが、いつでも障害物になるギミックの方が好まれるようです。

その為か、領域分割の太線を用いるパズルでは明確にキレコミではなくツイタテを採用しているものは見当たりませんでした。

※ 境界線を引いてしまうと盤面を分断することとなるので、ルール上の分断禁で結果的に非境界線しか引けないというケースは有ります*2。ただ、こちらは単なる障害物の性質であり、非境界線のみに特別な意味を持たせるものではないでしょう。

 

5 イロドリ ~現状で意味を持たないもの~

さて、ここからは現状で自明な解釈しかなされていないものを紹介します。

  • ドッチループ (領域内で特定の性質を共有)
    『同じ領域内では、◯印上で直進か曲折かは全て同じ』というルールが有ります。『領域内』なので自明な解釈が最も自然ですが、それでは非境界線には何の意味も無いことになってしまいます。
    現状で意味を見出すことは難しいですが、いっそのことスイッチとして解釈するのが1つの方法かもしれません。その場合、パリティからスイッチは必ず偶数回通るようにする必要が有りそうです。

    同様のケースには、ワールドツアーなどが有ります。この様に領域を単なるグループ分けで用いている場合、グループ分けに関わらない非境界線は自明な解釈をするのが主流のようです。

  • ぬりめいず (2×2禁)
    『白マス・黒マス共に2×2の塊を作ってはならない』というルールが有ります。このルール自体は太線はおろか境界線にすら関係しないルールなのですが、ここにツイタテの解釈ができる可能性が有ると考えています。つまり、2×2禁を『非境界線を内部に含まない2×2領域の塊はNG』に緩和するのです*3。同様にして白マスの小ループ禁も緩和します。

    2×2禁や小ループ禁はぬりかべを初めとして多くのパズルに採用されているので、可能性が有りそうです。

  • カーブデータ (線の形状)
    キレコミとして解釈が出来そうです。キレコミ線の直前に線が曲がるなどで、非境界線をまたぐ必要を生み出せます。

 

6 まとめ

以上、パズルにおける非境界線の扱いを紹介しました。パズルによってスイッチ・キレコミ・ノリシロ等といった様々な興味深い拡張が広げられているのは、開拓のし甲斐を感じさせます。

それでは、良い一日を。

*1:へやわけと同様に、ニコリ本誌では非境界線は扱わないものと想定していますが、もしニコリ本誌での非境界線に関する言及をご存知の方はご一報下さい

*2:ななめぐりの斜め線など

*3:2×2禁は1点を囲う最小のループの禁止と言えるので、ツイタテがループの線を阻害すると解釈できます