1. 隅に置けない問題
穏やかな風が吹く、草原の中。
小さなテーブルをはさんで、2人で座る。デコが淹れてくれた温かい紅茶に、角砂糖を1つ溶かし込む。
「どうでしょう、ここは落ち着きますか?」
そうですね、と答える。理想的な天気の中、優雅な一時を味わっているように思える。
「それは良かったです。
――そういえばお客様、パズルはお好きでしょうか」
なぜ突然パズルの話をと思いつつも、実は昨日も夜遅くまでパズルを解いていまして、と私は答える。
「でしたら、紅茶のお供にこちらのパズルはいかがでしょう」
突如として、テーブルの上に正方形の盤面が現れた。幾つかのマスには、黒丸で囲まれた数字が浮き出ている。
「この盤面にマス目に沿って縦横に線を引いて、どの領域も長方形となるように分割します。
ここで、数字は――」
――このパズル、見たことが有る。
『四角に切れ』……そんな言葉が漏れた。
四角に切れは、盤面を幾つかの長方形に分割するパズルである。
それぞれの長方形は黒丸が入るマスを唯1つ含み、その黒丸の中の数字は長方形の面積を表す。
ペンシルパズルの中でも古参に入る部類で、これだけで1冊のパズル本が出るほど根強い人気を誇る。
「……お客様、もしかしてこのパズルをご存じなのですか?少し違いましたが、このパズルの名前と同じように聞こえました」
デコはその名前を初めて聞いたような、きょとんとした表情でこちらを見た。
軽く首を縦に振ると、早速線を引いてみる。しかし、明らかにおかしい場所を見つけて手が止まる。
どうやっても、左下の2が面積2を確保できない。
これでは解けません、と左下のマスを指さしながらデコに話し掛ける。
「いえ、出来ますよ……こうするのです」
刹那、デコは2×2の正方形状に左下のマスを囲む。出来上がった正方形の中に、1が2つと2が1つ入った。
それはルール違反ではないですか、と私は口走る。思わず身を乗り出していた。
しかし、デコは先程と同様にきょとんとした表情をする。
「やはり、お客様が仰る『四角に切れ』は、こちらとは別のパズルなのでしょうか……?私は、このパズルを『四隅に切れ』と呼んでおります」
『四隅に切れ』……聞いたことが無い。四角に切れと良く似た名前だが、どんな関係が有るのだろう。ルール説明をもう一度してほしい、そうデコにお願いする。
「では、詳しく説明致します。
ルール1:マス目に沿って縦横に線を引き、盤面を幾つかの長方形に分割します。
ルール2:どの数字の有るマスも、長方形の四隅のどこかに位置します。
ルール3:長方形の面積は、その四隅にある数字最大4つの合計です。
例えば、このパズルの答えはこうなります」
説明ありがとう、そう言って目の前のパズルに視線を戻す。さて、今度は自分の手で解いてみよう。
Sample
少し時間が掛かったが、解くことが出来た。最後の線を引き、ほっと一息つく。
次の瞬間、マス目が輝きだし、私はとっさに目を覆う。そして、もう一度見てみると――そこにはマス目の形をした小さな板チョコが並んでいた。
これは……?デコの顔を覗き見る。
「お茶会で解いたパズルは、こうやって栄養へと変わるのです。さあ、新鮮なうちに食べてしまいましょう」
そうして、私は達成感を『味わった』。右上の4を食べると、僅かな酸味が効いたオレンジピールが中に入っていた。模様ごとに異なる味なのだろうか……そう思って右下の2を食べると、今度はイチゴの味が広がる。
では、これはどんな味なのだろう……左下の4、すなわち1+2+1を齧る。
――ミックスジュースの味がした。そんなチョコも有るのか、そう思いながら私は、盤面にあったチョコをあっという間に食べ尽くしてしまうのであった。
「御気に召しましたでしょうか?少しですが、問題の用意が御座います」
その申し出を断る訳もなく、私はデコの出す問題に挑戦することとした。
Q1
Q2 《08/02公開》
Q3 《08/03公開》
最後の一欠片を食べきる。全てのパズルを解いた証だ。デコは、私が食べる様子を満足げに眺めている。
「どうでしたか?ここでは、沢山のパズルが各地に散らばっています。よろしければ、旅のついでに楽しんではいかがでしょうか」
パズルが各地に……一体どんなものなのだろう。まだ見ぬパズルたちに、私は思いをはせる。太陽が、先ほどより高く昇っていた。