Solyuの気まま日記

Solyuの思ったことや考えたことをまとめます

並行パズル邂逅記 第8章

8.    目覚めの時が来る


どれくらい遠くへと来ただろうか。一日ぶりに、私は人工物らしきものを見た。
「この建物は、いったい何なのでしょうか……私たちを迎え入れているようですが、その理由は皆目見当もつきません」
彗星の導く先には、白く輝いた建物があった。扉が開け放たれており、誰でも自由に出入りできるようだ。
この建物についてデコに尋ねてみるが、どうやら向こうも知らないらしい。
「私もこの世界の全貌は分からないのです……とにかく広くて、見たこともないものだらけなのです。今見えている景色は、砂漠の中の1つの砂粒に過ぎません」
時間も空間も無限に引き延ばされたような世界。私は何故、この世界に迷い込んだのであろう。
この建物に、その手掛かりが有るかもしれない。意を決し、私は中へと入りこむ。
刹那、光が失われた。いや、所々にある照明だけがいまだ輝いている。しかし、もう外にあふれ出るほどの眩さは残されていない。
「お客様……やはりこちらも、パズルのようです」
このパズルもまた、よく知っているパズルに似た何かなのだろう。恐らく、そのテーマは光なのだろう、そう考えると1つ候補が浮上する。美術館だ。

 

美術館とは、盤面に幾つかの明かりを設置して、全てのマスを照らすパズルである。
照明は自身から縦横4方向を壁(=黒マス)に遮られるまで照らす。照明同士は照らし合ってはならない。
黒マスに数字が有る場合、そのマスに隣接する4マス中にある照明の数を表す。

 

解読の助けになると思い、デコに美術館というパズルについて説明する。
「興味深いパズルですね!おかげで、ルール文が解読できました。このパズルも、『月以外の』全マスを照らすことが目的のようです」
デコ曰く、このパズルの名前は美術回廊と呼ぶらしい。この建物の中央には不自然な穴が開いているが、そこに上手くオブジェを設置するのだそうだ。

《例題》


「では、お読み致します。

ルール1:幾つかのマスに鏡台を配置し、盤面内の月以外のマス全てに光が入るようにします。
ここで、鏡台とは直角二等辺三角形◢,◥,◤,◣のことです。
鏡台は斜めの辺でのみ光を反射し、他の2辺では光を吸収します。
ルール2:○は照明を表します。照明からは縦横4方向に光が放たれます。
照明から出た光が、自身や他の照明、月を照らしてはなりません。
ルール3:鏡台の入るマス同士は隣り合いません。また、記号を隠すように鏡台を配置してはなりません。
後述する三角片の記号のみ、その記号と重ならないように鏡台を配置できます。
ルール4:マス目に小さな三角片が有る場合、そのマスに入る光の道筋全てを表します。
即ち、三角片が有る方向からは必ず光が入り、無い方向からは光が入りません。
三角片も月も無いマスは、どのように光が入っても良いです。


聞く限り、キンコンカンのように鏡を配置するパズルのようだ。やはり特徴的なのは、鏡が片面であることだろうか。
私は建物の中を見回す。あのオブジェが月、あの床の模様が三角片、そして隅に沢山置かれているのが鏡台であろうか。これらを上手く配置すれば、この建物内は再び光で満ちるだろう。

 

Sample

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《例題の解答/解答のイメージ図》

 

最後の一枚を置き、私は外側の廊下へと戻る。例題が解けたことで、建物の入り口に光が取り戻された。かつて電球の発明により、夜にも光が溢れるようになったという。同じ様に、このパズルを解けばこの世界の夜も明るくなるのだろうか。

そう思っていると、突如床が光り、その模様が変わった。この美術館が美しさを取り戻すには、もう何段階か必要そうだ。

Q1

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Q2 《08/23公開》

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Q3 《08/24公開》

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「凄いですね。夜空に光が溢れていきます……」
デコがため息交じりに語る。解き終えたパズルから光が解き放たれ、辺りを照らし回っている。その光景は、さながら朝のようだ。
――そう思ったとき、突如建物が輝きを増し、それは球状になる。そして遠ざかり、輝きは増したまま小さくなったかと思うと……それは空に張り付き、大きな星となった。いや、これは星というより……
「――日の出です。こんな小さな建物に、太陽が隠れていたのですね」
ついに、この世界に朝が来た。これから、この世界はどう変わるのだろう。

並行パズル邂逅記 第7章

7.    夜空を照らす閃き


夜が訪れた。静寂の中、私は僅かな明かりを頼りにデコの地図を眺める。
辺りの暗さとは裏腹に、私の思考は眠気に覆われるどころか冴えるばかりだ。ずっとパズルを解いているが、思考はより鋭く磨かれている。
そして、眠気が来ないのはデコも同じであるらしい。地図を片手に、感慨深げに眺めている。
デコが眠らないのは、客である私が眠らないせいではないのか、と気になってデコに尋ねてみる。
「私は眠りません。お気になさらず」
気になって、質問を加えてみる。この世界では誰もがそうなのだろうか。
「ここの住人ですか……。いるとしたら、私と同じように、眠ることはないでしょう。
永い永い時を、そうやって生きているのです。時間感覚など、とうに失っております」
デコもそうだが、まだまだこの世界には不思議が多い。そして、なぜ自分がこの世界に迷い込んだのかも、分からないままだ。
私はため息をつき、夜空を見上げた。そこには色とりどりの星が輝いている。
――今までの経験のせいか、この星空さえパズルに見える。そう、星をモチーフとしたパズルが有るではないか。スターバトル、月か太陽、そして…天体ショー。

 

天体ショーは、盤面を幾つかの領域に分割するパズルである。
それぞれの領域は唯1つの星(=丸い点)を含み、星を中心に点対称の形となる。
パズルによっては、完成後に黒い星を含む領域だけ塗り潰すと、絵が出来ることも有る。
点対称と掛け合わせたユーモラスな名前と、追加のお絵かき要素から、人気度が高いパズルである。

 

古代の人は、星同士を線で結んで星座を作ったという。それを追体験するように、私は夜空を星々で区切っていく。その様子を、横からデコが興味深げに眺めてきた。
「お客様、何をしていらっしゃるのでしょう?」
私は天体ショーというパズルの話をした。すると、デコは夜空を見上げて呟く。
「――そう聞くと、この夜空も確かにパズルに見えてきます。
こちらは…対称星、そういう名前のようですね。只今、ルールを解読いたします」

デコは星空に絵を描くように、指を動かした。

《例題》

「読めました!確かに、天体ショーと似ていますね。

ルール1:マス目に沿って縦横に線を引き、盤面を幾つかの領域に分割します。
ルール2:どの領域も、最低2つの記号(=星)を含みます。
ルール3:どの領域も、その領域の記号配置を含めて点対称となります。


こちらの名前は、対称性と掛け合わせたということだろう。点対称な領域に区切ることと星がモチーフなことは似ているが、こちらは星が必ずしも領域の中心に位置せず、その配置から領域の中心がどこかを探さなければならない。

「あの星々が有る辺りが、例題のようですね。解いてみましょう」
星が銀河になる、壮大な物語の始まりだ。

 

《このパズルはPuzzle Squareへの登録の際に、細かいルール(どの銀河も穴が開かない)が追加されました。なお、問題の解答自体には影響しません。》

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《例題の解答/解答のイメージ図》

 

 

小さな一角が、銀河で区切られた。この調子で、近くにあるあの星空も銀河に分けられないだろうか。そう考えると、突然どこかの星が光った。
「次は、あの箇所なのでしょうか?」
デコの言葉通りだろう。私は視線を動かし、点滅した方の星空を眺めた。何処に線が引けるだろうか。

 

Q1

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Q2 《08/20公開》

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Q3 《08/21公開》

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全てのパズルを解き終えた。星々の輝きは1問解くごとに輝きを増し、夜には見合わない明るさを成している。そして、それらが急激に輝きだし、私は目を覆う。
目を開けると、そこにはもう星々の姿はなく、代わりに1つの大きな赤いほうき星が残っていた。それは夜空を引き裂くように真横へと突き進み、どこまでも落ちないように見える。
「彗星の道標でしょうか。追ってみましょう」
星の流れる方向へと、私たちは導かれる。夜の暗さは、一層濃くなっていた。

並行パズル邂逅記 第6章

6.    虫の知らせが導く


私たちの旅は、一つの中継地点に着いたようだった。
蛇に別れを言い、デコと一緒に大きく手を振る。蛇は満足げに帰っていった。
眼前に広がるのは、赤や黄色に色鮮やかな森。
「あちらこちらで紅葉が見られますね。秋のようです」
ここでは季節の概念が曖昧らしい。思えば、城内庭園にも色んな季節の花が混在していた。ここにある時間らしきものは、昼と夜くらいだ。
そう、その夜がもうすぐ来ようとしていた。夕日が向こう側に見える。早いものだ。眠気がまるで追い付いていない。
ふと、私の目の前を何かが横切る。――蜂だ。デコの方をちらりと見やる。
「――はい、大丈夫です。害はありません。おそらく、この蜂さんもパズルなのでしょう」
デコの言う通り、この世界はまるで目に見えるもの全てがパズルのようだ。あまりにも大きすぎる、パズルの博物館がここにある。
さて、蜂とパズルといえば、有名なものが1つある。ハニーアイランドだ。

 

ハニーアイランドは、正六角形盤面上に黒マスを配置するパズルである。
盤面は一辺5の正六角形上の配置(計61マス)で固定され、そこに幾つか黒マスが予め置かれている。
上手く黒マスを埋め、白マス6つの領域を丁度6つ作るのがパズルの目標となる。
変形盤面を用いた中では、最も有名なパズルの1つに入る。大枠を感覚で決めた後、微調整を繰り返して解くという、他のパズルでは中々見られない解き方もできるのがこのパズルの醍醐味である。

 

では、この世界ではどんなパズルになるのか。私が蜂の行方を追った先には、同じ61マスの盤面に、黒マスではなく幾つかの数字が配置されていた。
「どれどれ……このパズルはハニーテリトリーと呼ぶらしいですね」
毎度のことだが、ルールの説明はデコに任せている。デコを介さなければ、私にはこの世界の文字が分からないからだ。加算コーナーの辺りで辛うじて数字は覚えたが、ルール文はとても読めない。

《例題》

ルール1:幾つかのマスを黒く塗り潰し、盤面を白マスの塊8つに分けます。8つの塊の面積は、それぞれ1,2,…,8となります。
ルール2:数字のマスは白マスとなり、そのマスを含む塊の面積を表します。また、?のマスは白マスとなります。このとき、面積は1~8のどれでも良いです。


久しぶりに、バリアントらしいものが来た。どうやら名前が似ていても、ルールが似るかは種類によって大きく異なるらしい。
「盤面が固定のパズルは、珍しいですね。心なしか、例題も大きく見えます」
その通りで、私はその見た目の大きさに戸惑う。しかしすぐに、表出されている数字が多く有ることに気付く。これによって難易度を調整しているのだろう。
旅の休憩時間には丁度良い。そう思い、私はそれらを解くことにした。

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《例題の解答/解答のイメージ図》

 

例題が解け、完成した盤面の上を蜂が舞った。何匹かの仲間が更にやってきて、出来上がった『巣』に留まる。すると蜂の止まったマスの内容が書き換わり、新たな問題が出来上がった。
蜂たちが満足するには、もう少しパズルを解かなければならないようだ。

 

Q1

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Q2 《08/17公開》

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Q3 《08/18公開》

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最後のパズルが完成し、個性豊かなハチの巣が出来上がった。先程の蜂たちは、目の前で八の字ダンスを踊ったあと、何かを思い出したように一直線に動き出した。
デコと共に、ハチの後を追う。そこには、一本の巨大な樹がそびえ立っていた。ゆさゆさと、頭上の葉が揺れ動く音がする。
「――もしかして!お客様、水を掬うように手をお出しください」
デコの言葉通りに手を出すと、真上から小さな球形のものが幾つか落ちてきた。
これは……飴玉だろうか。木から降ってくるものではないように思えるが、どういうことだろう。
「ハニーキャンディですね。きっと、パズルを解いて下さったお礼でしょう。とても甘くて美味しいですよ」
一粒を口の中に放り込むと、癒される味わいがした。甘い一時だった。

並行パズル邂逅記 第5章

5.    隣人の顔も霞む


蛇の背中に乗ってから、どれくらい時間がたっただろうか。周囲を深い霧で覆われ、時間感覚さえ失われている。それにしても、この霧の濃さ……尋常ではない。
「蛇さんも、行き先を見失っているようですね……」
デコは不安げにこちらを見やる。その顔も霧のせいかぼやけて見える。
「――これはもしかすると、パズルの仕業かもしれません」
パズルの仕業。Puzzleという英単語には人を悩ませるものという意味があるらしいが、今まさにそれに直面している。
「どんなパズルなのでしょう?想像するに、お客様の知っているパズルと似たものであると思います」
そうは言われても、皆目見当もつかない。
「頑張って、少し解析してみますね……
隣り合う……異なる……?」
さすがにそれだけでは、領域パズルだろうとしか推測できない。
「もう少し……数字……面積……」
――違うかもしれない。数字が面積、隣り合う領域同士は異なる……
それはもしかして、フィルオミノのことではないだろうか。

 

フィルオミノとは、盤面の各マスに1つずつ数字を配置するパズルだ。
数字は必ず、そのマス分の塊になる。例えば、3は3マスだけ縦横に繋がる。
異なる数字同士に境界を引けば、こんなパズルだと解釈もできる。つまり、各領域に含まれる数字はその面積と同じであり、同じ面積の領域同士は隣り合わない。

 

これはフィルオミノかもしれない。そう思ったとき、突然霧が形を変え、部分部分だけ濃くなった。
――やはり、フィルオミノとは似ているが異なるパズルなのだろう。数字が複数混ざったマスがある上に、0まで含まれている。
「これは、フェンスミノという名前なのですね……初めて見ました」
デコの表情が驚きに満ちるのが、霧の中ではっきり見えた。

《例題》

「ルールをご説明致しましょう。

ルール1:マスの中央を通るように縦横に線を引き、盤面に幾つかのループを描きます。
ルール2:どのループも自己交差しません。ループ同士は頂点を共有できますが、辺を共有したり交差したりしてはなりません。また、また、ループの線で二重に囲まれる個所を形成してはなりません。
ルール3:数字は、そのマスを通るか囲むループが囲んでいる面積を表します。2つのループが通る場合は、両方の面積を記します。ループが通らない場合、0で表します。?が有る場合、そこには1以上の数字が入ります。
ルール4:ループが通らないマス同士は隣り合いません。
ルール5:同じ面積を囲むループ同士は共有点を持たず、また双方の頂点同士は隣り合いません。つまり、いずれかのマス目の辺の両端となりません。


これはフィルオミノ……の魔改造だろうか。数字を記入するパズルだったはずが、ループを描くパズルになっている。
いずれにしてもルールが分かったなら、今度は解く時間だ。得体の知れない世界に、光明を見出そう。

 

《このパズルは、後ほどPuzzle Square上でルール登録をする際、マスの中央と格子点とが入れ替わりました。その為、Puzzle Square上でのルール説明とは異なる表現が幾つかあります。
元のルール文は作者コメント欄より確認できますので、宜しければご活用下さい。》

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《例題の解答/解答のイメージ図》

 

 

パズルを解き終えると、それは透明な箱に変わった。恐る恐る蓋を開けると、それは付近の霧を吸い込み始めた。少しは視界が開けたが、まだ全てを吸い取るには小さすぎる。
より多くの容積を確保するため、次のパズルへと取り掛かった。

 

Q1

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Q2 《08/14公開》

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Q3 《08/15公開》

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パズルが解き終わり、それは一際大きな箱と変化する。そしてミミックのごとく突然口を開き、あたりの空気を手当たり次第に喰らい始めた。
「うわあ……!すごい勢いで霧が吸い込まれていきます」
凄まじい風圧の中、どうにか目を開けてみると、デコの言う通り霧がたちまち晴れていく。このパズルは、霧を囲う柵と変わったのだ。
再び、明るい世界が戻ってきた。――実に透き通って見える。空気は、こんなにも透明なのだ。
道を見つけた蛇が、勢い良く動き出す。涼しい風が頬を伝った。

並行パズル邂逅記 第4章

4.    Elephant in the room, snake in the puzzle


目の前の景色が、延々と続くように見えた。
「中々遠いですね……道は合っている筈なのですが」
デコが手に持っている紙には、先程現れた地図が正確に写されている。どうやったのか尋ねてみると、「パズルなら何でも『コピー』できます」と返ってきた。お茶会でパズルを取り出してみせたのも、その応用なのだという。
私とデコの目線の先には、地平線しか区切ってくれない一直線の道が有った。気が付けば息が途切れ途切れになっており、この世界でも疲れはあるのだと実感させられる。
代り映えしない景色に嫌気がさしたのか、単純に疲労のせいか、目線は下を向いていた。すると、そこに何か動くものが現れる。
――蛇だ。びっくりして私は後ずさる。少しの間を置いてデコも蛇に気付き、私に話し掛ける。
「大丈夫です、お客様。この世界の蛇は、毒は持っていませんよ」
見ると、蛇は私たちをじっと睨んでいる。そして、足元の地面にパズルらしきものが浮かんできた。

《例題》

奇妙な出現の仕方だが、もうこれくらいでは驚かない自分がいる。
「これは……~やわけ、というパズルらしいですね。私も城の外のパズルは存じ上げません……ルールを解読してみます」
ニョロヤワケ……?と私は聞き返す。名前だけ聞くと、へやわけに似ている。そしてパズルを見てみると、確かに盤面が幾つかの部屋に分かれており、左上には数字が有る。

 

へやわけとは、予め与えられた部屋の中に黒マスを配置するパズルである。
黒マスは辺で隣り合わず、また盤面を分断しない。部屋の左上の数字は、その部屋の中の数字を表す。
そして、特徴的なルールが次…白マスが一直線に3部屋以上跨ってはならない、というものだ。
いわゆる三連禁である。このルールは、部屋が密集するほど重い制約となる。

 

へやわけに似たパズルといえば、Akichiwake(空き地わけ)の話を避けては通れないだろう。
こちらは部屋の左上の数字が、その部屋の中の白マスの塊の許容最大数を表す。
例えば3なら、3以下の白マスの塊は幾ら有っても良い(全て3未満でも良い)が、4以上はダメということだ。

 

だが、目の前にあるパズルは、その2つとも違う様相をしていた。左上に数字や?が複数ある部屋が有り、更に部屋とは関係なく丸い記号が何マスかに置かれている。
丁度そのとき、デコがルールを解読し終え、私に説明をしてくれる。


「お待たせしました、お客様。こちらがルールとなります。

ルール1:幾つかのマスを黒く塗り潰し、盤面に何匹かのヘビを描きます。
ここで、ヘビとは幅1の黒マスの列であり、自身と4方向で隣り合いません。
ルール2:ヘビ同士は4方向で隣り合いません。
ルール3:○の有るマスは蛇の両端のいずれかとなります。○以外に蛇の両端が有ってはなりません。
ルール4:太線で区切られた各領域を、部屋と呼びます。
数字は、その部屋の中の白マスの塊それぞれの面積を表します。?が有る場合、そこには1以上の数字が入ります。


これは驚いた。名前こそへやわけに似ているが、三連禁も無ければ黒マスの制約もまるで違う。Akichiwakeの方がまだ近いだろうか。だが、蛇が部屋を分けているという意味合いは確かに頷ける。
思考を巡らせる私の足元に、何か重みが圧し掛かる。蛇が待ちくたびれたようにこちらを見ていた。
「もしかすると、何か旅の手掛かりが得られるかもしれません。このままでも一向に進みませんし、リフレッシュ代わりに解いてみましょう」
そういう流れで、私はこのパズルを解くことになった。さて、この盤面の茂みの中、蛇たちはどう隠れているのだろうか……

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《例題の解答/解答のイメージ図》

 

 

パズルを解き、私は蛇に顔を向ける。不満そうには見えないが、まだ何かを欲していそうな顔だ。
そう思ったとき、地面に先程より大きな盤面が浮かび上がった。
蛇によれば、今まではチュートリアルであったらしい。さて、この『クエスト』をクリアして見せよう。

 

《一部の問題で○と数字とが重なっていますが、双方の意味は独立しております》

Q1

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Q2 《08/11公開》

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Q3 《08/12公開》

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全てのパズルが解き終わった。蛇のほうを見やると、満足そうな表情を浮かべている。
そして突然、その体が大きくなりだし、人を飲み込めるほどの大蛇へと変わった。蛇はゆっくりと背を向けると、こちら側を振り返りつつその場でとどまる。
私たちは意味を図りかねていたが、暫くしてデコが理解した。
「もしかして……乗っていけ、ということなのでしょうか……?」
確かに乗り物があるのならば、この先の道には心強い。蛇の背中に恐る恐る乗ると、それは少しの間をおいてゆっくりと動き出していた。
さて、この道の端は何処にあるのだろう。蛇の端が見えたのだ、きっとすぐ近くにあるはずだ。そう思いながら、私は大蛇の乗り心地を楽しむのであった。

並行パズル邂逅記 第3章

3.    氷山の一角


「お客様は、私が存じ上げないパズルを多数ご存じのようです」
デコの方こそ、と私は呟く。ここにはどうも、聞いたことのないパズルが多く有るらしい。今までいろんなパズルに触れてきたと思っていたが、パズルの世界はこんなにも広く見渡しきれないのだと改めて思い知らされる。
「次は、少し珍しいですが数字配置のパズルをご用意しようと思います。お客様は、何かご存じのパズルは御座いますでしょうか?もしかすると、似たものが有るかもしれません」
数字配置のパズルは意外と少ない。私はナンプレの名前を挙げて紹介する。各行各列および各小正方形に1~9までの数字を1つずつ入れるパズルだ。
「面白いですね。数字そのものの意味は識別だけなのですね」
そこで私は、キラーナンプレというものを紹介する。こちらはナンプレのルールに加えて、幾つかの領域に総和や相乗が記されている。
「そうやって計算要素を加えるのですね!さぞ人気なのでしょう」
だが、デコの知っているパズルとはあまり関係が無いらしい。ナンプレのほかに、メジャーな数字配置のパズルといえば……
――加算クロス。その名前を出してみる。

 

加算クロス、略称はカックロ。1~9の数字を空いているマスに配置するパズルである。

あるマスから黒マスに遮られず見える範囲に、同じ数字を入れてはいけない。
黒マスの小さな数字は、そのマスから1方向に見える数字の和を表す。
流石にナンプレには敵わないが、かなりの大御所パズルだ。

 

「……!似たパズルを存じ上げております。『加算コーナー』、只今紹介致します」
コーナーとは、角という意味だ。一体、どの辺りが角なのだろう……

デコと共に城の中に入って数分。建物の地下へと来た私のもとに現れたのは、何枚かのタイルが抜けてくぼみとなっている壁画であった。それも……6角形の形のタイルが抜けている。
くぼみは正六角形を正三角形状に敷き詰めたような形状をしていて、中には所々黒い円が見える。

《例題》

「こちらが、加算コーナーの例題となります。

ルール1:マス目に1~Nを配置し、盤面内に1がN個、2がN-1個、…、Nが1個有るようにします。
ここで、Nとは盤面の一辺にあるマス数のことです。今回は5ですね。
ルール2:同じ数字同士は隣り合いません。
ルール3:黒い円の中の数字は、その角を頂点に持つ最大3マスの数字の合計です。


だから角なのか、と私は納得する。加算クロスの亜種に、加算サークルという円の周囲8マスの和を表出するパズルが有るが、それと似たネーミングだ。
一方で、あらかじめ入れる数字の個数が決まっているのは、ナンプレに近いだろうか。
「では、実際に『手を動かして』みましょう」
この壁画を完成させると、何が起こるのだろう。そんな期待を胸に、タイルを嵌めていくこととした。

 

《仕様上、この記事の問題は全て、青い数字のみを判定します。
黒や緑などで数字を記入しても解答と認識されませんので、ご注意下さい》

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《例題の解答/解答のイメージ図》

 

壁画が完成した。それは何かの模様らしき姿に変わったが、まだこれだけでは推測は難しい。
すると、デコが壁の一部を指さして私を呼ぶ。
「近くにも、タイルが剥がれている箇所が有りますね。埋めてみましょう」
そこには、先程より1周り大きな穴が有った。先程の例題に対して、こちらは本題という訳だ。
どんな模様が出来上がるのか想像しつつ、私は壁へと向かった。

Q1

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Q2 《08/08公開》

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Q3 《08/09公開》

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全ての壁が修復され、後には奇妙な模様が残った。全体を俯瞰しようと一歩引いて、初めて私はその内容に気が付く。
――地図。もしかすると、ここの地図なのかもしれない。
「となると、この色の違う箇所が、次の目的地なのでしょうか?行ってみましょう」
デコの言葉に頷く。気分はすっかり、探検隊になっていた。

並行パズル邂逅記 第2章

2.    解き難き牙城


「では、先ほどのお城に戻りましょう。城内散歩も楽しいですよ」
デコの後ろを着いていくと、そこには大きな門があった。目覚めたときにいた場所の、入口らしい。
早速中に入ると、大きな庭園が待ち受けていた。
「沢山の石像が並んでいるのが見えますか?あちら全部、兵隊の形をしているのです」
白と黒と灰色の石像が、あちこちに並んでいる。兵隊の向きはまちまちで、一貫性があるようには思えない。
いや、待て……白と黒、向きを持った石像。見たことが有るパズルかもしれない……
「もしかして、こちらに見覚えが有りますか?」
ひとまず、あの石像の下に行ってみよう。もし予想が正しければ、このパズルはあの場所を上手く歩くことで解けるはずだ。

石像の下に辿り着いて、私は兵隊の胸元に☆が幾つか飾られているのを見つける。想像はしていた。この星は数字と対応するのだろう。そう、Castle Wallに有るように。

 

Castle Wallとは、盤面に1つのループを描くパズルである。
手掛かりのマスは白黒でループの内外を表す。白が内、黒が外、灰色はどちらでも良い。
また、矢印と数字でその方向に伸びているループの線分の長さを表す。

 

さて、この石像を見てみよう。色は恐らく白。――白?私は自分の立ち位置を確認する。
有り得ない。ここは一番外周のはずだ。ループの内側にはなり得ない。
考え直そうと、私は一度外に出て、盤面を良く眺める。すると、更におかしな点が出てきた。
Castle Wallにはない+マークが、地面に記されてあったのだ。
「お客様、只今到着しました……急に走って行かれましたが、どうかされましたか?」
似たパズルと勘違いして、と答える。四隅に切れといい、どうも今日は勘が冴えない様だ。
「お客様、差し支えなければそのパズル名をお教え下さると――」
Castle Wallと答えた瞬間、デコははっとした表情を見せた。
「名前が似ていますね。こちらのパズルは、Castle Walkerというものです」
やはりここは、デコの説明を仰ぐべきであろう。

《例題》

「では、説明させて頂きます。
ルール1:マスの中央を通るように縦横に線を引き、盤面に向きの付いた一つのループを描きます。
ルール2:ループは全ての記号を通り、また+記号でのみ必ず交差します。
+記号以外でループが自身と重なることはありません。
ルール3:四角の中の数字は、そのマスを通る辺の長さの合計を表します。
ここで、辺とはループの線のまっすぐな各成分を指します。
ルール4:四角の色は、そのマスでループが直進するか曲折するかを表します。
白なら直進、黒なら曲折します。灰色はどちらでも良いです。
ルール5:四角の中の矢印は、線が出る方向を表します。

盤面こそCastle Wallに似ているが、数字はGeradewegやリフレクトリンク、色はましゅに近いだろうか。独立なヒントが3種類もあるとは、風変わりなパズルもあるものだ。
「これでルールは全てです。では、ごゆっくりお楽しみ下さい」
私は再び、パズルの内部へと戻る。そこで、先程迄見逃していたことに気付く。
黒い石像が1つ、倒れ落ちていた。辛うじて星の数は見えたが、これでは方向が分からない。
――いや。わざと方向を分からなくさせているのだ。一部の手掛かりを?等にして伏せるのは、パズルには良くあることだ。

サイズからするに、これが例題なのだろう。解いてみよう……

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《例題の解答/解答のイメージ図》

 

解けた。解答の道順通りに歩き、ついでに倒れていた石像を向きだけでも揃えるように動かす。
1周したと思った直後、何処かでベルの音が鳴り響いた。
「このパズルは、音へと変わるようですね。どうでしょう、聞き心地は」
懐かしい響きのある曲だ。かつて良く聴いていた音楽というものは、ふと聴いてみると新しい発見を感じられる。あの頃と今との違いを、音が教えてくれるのだろう。
では、他の庭園のパズルを解けば、どんな音楽が流れるのだろう。忘れ去っていたものを、探しに行く旅へと行こう。

Q1

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Q2 《08/05公開》

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Q3 《08/06公開》

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最後の一曲が流れる。その曲は、郷愁という言葉が似合う穏やかな調べで、聞く人の心を癒す音だった。
「この世界にも、昔が有るのでしょうか。――こんな話を聞いたことが有ります」
デコはそう言って、不思議な出来事を話し始めた。
「かつて空の彼方より、この世界を覗き見る大きな窓が現れました。わずかな間でしたが、その期間にこの世界は急激に成長したのだそうです」
この城も、そのとき出来上がったものであるらしいとデコは言う。
「さて、次のパズルに向かいましょう。お客様の助けになるものが、有るかもしれません」
この城は、旅立つ者への手助けをするところなのです、そうデコは付け加える。何でも、窓を開け、この世界をこうして育ててくれた誰かのお礼であるのだと。
ベルの音が、未だ微かに空気を揺らしていた。