Solyuの気まま日記

Solyuの思ったことや考えたことをまとめます

並行パズル邂逅記 第1章

1.    隅に置けない問題

 

穏やかな風が吹く、草原の中。

小さなテーブルをはさんで、2人で座る。デコが淹れてくれた温かい紅茶に、角砂糖を1つ溶かし込む。

「どうでしょう、ここは落ち着きますか?」

そうですね、と答える。理想的な天気の中、優雅な一時を味わっているように思える。

「それは良かったです。

――そういえばお客様、パズルはお好きでしょうか」

なぜ突然パズルの話をと思いつつも、実は昨日も夜遅くまでパズルを解いていまして、と私は答える。

「でしたら、紅茶のお供にこちらのパズルはいかがでしょう」

突如として、テーブルの上に正方形の盤面が現れた。幾つかのマスには、黒丸で囲まれた数字が浮き出ている。

《例題》

 

「この盤面にマス目に沿って縦横に線を引いて、どの領域も長方形となるように分割します。
ここで、数字は――」

――このパズル、見たことが有る。

四角に切れ』……そんな言葉が漏れた。

 

四角に切れは、盤面を幾つかの長方形に分割するパズルである。
それぞれの長方形は黒丸が入るマスを唯1つ含み、その黒丸の中の数字は長方形の面積を表す。

ペンシルパズルの中でも古参に入る部類で、これだけで1冊のパズル本が出るほど根強い人気を誇る。

 

「……お客様、もしかしてこのパズルをご存じなのですか?少し違いましたが、このパズルの名前と同じように聞こえました」

デコはその名前を初めて聞いたような、きょとんとした表情でこちらを見た。

軽く首を縦に振ると、早速線を引いてみる。しかし、明らかにおかしい場所を見つけて手が止まる。

どうやっても、左下の2が面積2を確保できない。

これでは解けません、と左下のマスを指さしながらデコに話し掛ける。

 

「いえ、出来ますよ……こうするのです」

刹那、デコは2×2の正方形状に左下のマスを囲む。出来上がった正方形の中に、1が2つと2が1つ入った。

それはルール違反ではないですか、と私は口走る。思わず身を乗り出していた。

しかし、デコは先程と同様にきょとんとした表情をする。

「やはり、お客様が仰る『四角に切れ』は、こちらとは別のパズルなのでしょうか……?私は、このパズルを『四隅に切れ』と呼んでおります」

『四隅に切れ』……聞いたことが無い。四角に切れと良く似た名前だが、どんな関係が有るのだろう。ルール説明をもう一度してほしい、そうデコにお願いする。

 

「では、詳しく説明致します。

ルール1:マス目に沿って縦横に線を引き、盤面を幾つかの長方形に分割します。
ルール2:どの数字の有るマスも、長方形の四隅のどこかに位置します。
ルール3:長方形の面積は、その四隅にある数字最大4つの合計です。

例えば、このパズルの答えはこうなります」

 

《例題の解答/解答のイメージ図》




説明ありがとう、そう言って目の前のパズルに視線を戻す。さて、今度は自分の手で解いてみよう。

Sample

puzsq.logicpuzzle.app

 

少し時間が掛かったが、解くことが出来た。最後の線を引き、ほっと一息つく。

次の瞬間、マス目が輝きだし、私はとっさに目を覆う。そして、もう一度見てみると――そこにはマス目の形をした小さな板チョコが並んでいた。

これは……?デコの顔を覗き見る。

「お茶会で解いたパズルは、こうやって栄養へと変わるのです。さあ、新鮮なうちに食べてしまいましょう」

そうして、私は達成感を『味わった』。右上の4を食べると、僅かな酸味が効いたオレンジピールが中に入っていた。模様ごとに異なる味なのだろうか……そう思って右下の2を食べると、今度はイチゴの味が広がる。

では、これはどんな味なのだろう……左下の4、すなわち1+2+1を齧る。

――ミックスジュースの味がした。そんなチョコも有るのか、そう思いながら私は、盤面にあったチョコをあっという間に食べ尽くしてしまうのであった。

 

「御気に召しましたでしょうか?少しですが、問題の用意が御座います」

その申し出を断る訳もなく、私はデコの出す問題に挑戦することとした。

 

Q1

puzsq.logicpuzzle.app

Q2 《08/02公開》

puzsq.logicpuzzle.app

Q3 《08/03公開》

puzsq.logicpuzzle.app

 

 

最後の一欠片を食べきる。全てのパズルを解いた証だ。デコは、私が食べる様子を満足げに眺めている。

「どうでしたか?ここでは、沢山のパズルが各地に散らばっています。よろしければ、旅のついでに楽しんではいかがでしょうか」

パズルが各地に……一体どんなものなのだろう。まだ見ぬパズルたちに、私は思いをはせる。太陽が、先ほどより高く昇っていた。

 

 

 

並行パズル邂逅記 序章

 

 

 

※ この作品はフィクションであり、一部のパズルを除き、実在する人物・団体とは一切関係ありません。
※ 《》で囲まれた文章内は、パズルなどの補足説明となります。ストーリーとは関係ありません。
※ この作品は、読者様を並行パズルの世界へ誘う可能性があります。
それでも構わない読者様は、是非この先へお進み下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


0.    序章

まずは、この状況について整理しよう。たしか昨日の夜遅くまで、自宅でパズルを解いていたはずだ。数時間の格闘の末に解き終わったのは覚えているが、その後の記憶がない。寝落ちしてしまったに違いない。
眼前に見える、芯が尽きた蝋燭と古びた照明。ついさっきまで自分が眠っていた、高級感のある白いベッド。まるで見慣れない景色だが、頬を抓れば痛みがする。知らない世界に、自分の存在が溶け込んでいるようだ。
起き上がり、辺りを見渡す。どうやらここは、何かの建物の一室らしい。外を眺めようと窓を開けると、そこには見たこともない乳白色の世界が広がっていた。
……?たった今見た光景が信じられず、思わず目を瞑る。そして、恐る恐る閉じた目を再度開けてみる。
――次に現れたのは、爽やかな風と、窓枠に収まりきらない草原だった。
ここはどうやら、地階だったらしい。格子から身を乗り出して、外の空気を味わおうとする。そこで、思いがけず何かが視界に入る。
「あら、もう起きていたのですか?おはようございます、お客様」
その、人かどうかも分からない生物は、自分に向かってお辞儀をした。
「申し遅れました、私はデコと名乗る者です。以後、お見知りおきを。
お客様は、この世界に迷い込んで来られたのですか?」
訳も分からぬまま、そうですと正直に答える。
「では、私がこの世界の案内人をさせて頂いても宜しいでしょうか?その過程で、帰り道も見つかることでしょう」
デコの申し出を、ひとまずは受け入れることとした。それ以外にどうすればいいか、私には皆目見当がつかなかったからだ。それに、帰り道という言葉も気になる。
「承りました。それでは早速、こちらの草原でお茶会としましょう」
右も左も定かでない中、奇妙な時間が幕を開けた。

 

 

 

 

《お知らせ》08/01より『並行パズル邂逅記』を順次公開致します

突然ですが、2023/08/01~2023/08/31の間、『並行パズル邂逅記』というタイトルで幾つかの連続する記事を順次公開する予定です。

開催前に、簡単な内容の説明を行います。

 

1 概要

近くにあるのに、何処にもない。
そんなパズルとの出会いを、体験してみませんか。

『並行世界のパズル』をテーマに、新種のパズルを10種類(+α…?)、各3(+例題1)問ずつ投稿します。

各パズルには種類ごとにストーリーが付随しております。
それぞれ、原則3日ごとに本ブログにて公開予定です。

パズルは原則1日1問ずつ、Puzzle Square JPにて公開予定です。

 

2 内容・スケジュール

  1. 序章 事前公開(07/31頃)
    イントロ
  2. 隅に置けない問題 08/01
    ?????(領域分割のパズル)
  3. 解き難き牙城 08/04
    ?????? ??????(線のパズル)
  4. 氷山の一角 08/07
    ??????(数字配置のパズル)
  5. Elephant in the room, ????? in the puzzle 08/10
    ????(黒マスのパズル)
  6. 隣人の顔も霞む 08/13
    ??????(線のパズル)
  7. ?の知らせが導く 08/16
    ????????(黒マスのパズル)
  8. 夜空を照らす閃き 08/19
    ???(領域分割のパズル)
  9. 目覚めの時が来る 08/22
    ????(記号配置のパズル)
  10. 交わる?、離れ行く世界 08/25
    ??????(線のパズル)
  11. 光の通ずる旅路 08/28
    ???????(記号配置のパズル)
  12. ??? 08/31
    ???????????
  13.  

(パズル名や一部の箇所は、下線部の理由により?で伏せております)

 

なお、然るべき公開日時前にパズル名やルールが流出し、並行世界との予期しない接触が発生する事態を避ける為、全てのパズルは『その他』種で投稿しております。期間が終了次第(2023/09以降)、該当のパズル種を追加・修正する予定です。

 

3 Q&A

  • 『並行パズル』とは?
    既存のパズルに名前やデザイン、一部のルールが類似した、しかしながらバリアントと呼ぶにはやや離れているであろう、そんなパズルのことです。
  • 例題は有りますか?
    各種類につき、1問ずつ例題を用意しました。例題の解答は、ストーリー中で確認できます。
  • 並行パズルの出典は何処ですか?
    各パズルは、ルールも含めて全て自作です。
    但し、もしかするとバリアントなどで既出かもしれません。作者は細心の注意を払っていますが、万が一被ってしまった場合はご容赦下さい。
  • 各パズルの難易度はどうなっていますか?
    例題は☆1(らくらく)、1~2問目は☆2~3(おてごろ~たいへん)、3問目は☆3~4(たいへん~アゼン)程度の難易度を想定しております。
  • 並行パズルの世界への旅行費は幾らになりますか?
    今回は特別にタダです。是非ご堪能あれ!

 

 

 

 

 

 

クロスウォール上達への道 制作裏話

2023/06/01~2023/06/30に掛けて、Puzzle Squareにてクロスウォールの解説付き問題を1日1問ずつ投稿しました(問題は以下のリンクか、あるいはハッシュタグ『#クロスウォール上達への道』で検索できます)。

puzsq.logicpuzzle.app

今回は、このシリーズ30問を作るにあたっての裏話を書こうと思います。

1 きっかけ

きっかけは、クロスウォールの解き筋についての記事第二弾を作ろうとしていたときにまでさかのぼります。

その頃、ゲームなどのチュートリアルについて考える機会が有り、多くの良ゲーは『習うより慣れろ』の精神で初めからゲームをプレイできるようにしているという知識を得ました。そこで、私はこう考えました。

《それなら、初めから簡単かつ応用の利く問題を用意して、クロスウォールに触れたばかりの方でも解き筋を自然に理解できるようにすれば良いのでは……?》

そう思った私は、第二弾をボツにし、内容の構想に移りました。

まず、いつどうやって投稿するかです。一気に問題を投稿すると、その一瞬しか見られないかもしれないと思い、1日1問と忘れられないくらいの投稿ペースで一定期間投稿する形式としました。都合の良いことに、6月が丁度30日有ったので、この期間に投稿することに決めました。

2 章立て

30=5×6=6×5なので、5章か6章立てとする方針を立てました。そうなると、各章に5~6問分の問題が割り当てられることとなります。

要点を短く簡潔にまとめる目的から、1章=1テーマあたり5問、そして最後の問題はボス問=総復習として実質1テーマにつき4問で制作することとしました(つまり、6章立てを選んだこととなります)。

さて、クロスウォールの手筋を語るにあたり、以下の様に分類しました。

  • 2色塗分けに関する基本手筋
    →内側度の偶奇で塗り分けできる、隣り合う領域は異なる色etc…
  • 内側度に関する基本手筋
    →内側度0は外周と接続、内側度2は外周と接しないetc…
  • 小ループに関する基本手筋
    →内側度0は盤面を分断しない、既に有る小ループは角を交差で回避etc…
  • マス同士の繋がりに関する手筋(応用手筋)
    →面積の確保、接続線の決定etc…
  • 大域的な見方を要求する手筋(応用手筋)
    →内側度0の脱出、見えにくい小ループ禁etc…

……5つしかない。何と、ネタ切れが起きてしまったのです。*1そうなると、何かおまけとなるものを用意する必要が有ります。
そこでふとPatrick's Parabox*2というゲームを思い出した私は、こう考えました。

《バリアント(変種)を紹介すればいいのでは?》

かくして、第6章はバリアント紹介編となりました。紹介編と言いつつ、初出のバリアントが有りましたが……理由は後述します。

さて、次に考えるべきは、各章の並び順です。2色塗り分けは有ると無いとで大きく話が変わる上に、非自明な性質なので、最初に述べることにしました。

小ループと内側度に関しては、小ループの方がやや高度な手筋を用いるので、こちらを後の方にしました。

大域的な見方はかなり難しく、第5章に回しました。*3

こうして、各章の並び順が決定しました。後は、問題制作です。

3 問題制作

問題制作にあたって、次の内容を重視しました。

  1. その問題より後の問題で紹介する手筋は、一切使わないで解ける
    例えば、2章までの問題は、小ループを全く気にすることなく解けるように設計してあります(これは地味に苦労する箇所でした)。
  2. 配置よりも作意を重視
    作意=その問題のテーマをなるべく前面に押し出せるように設計し、それ以外の要素での試行錯誤はなるべく排除しました。
    この影響で、作意を伝える為の余剰ヒントがかなり多くの箇所に存在します。その分、作意に関わるヒントはその作意が伝わる最小限のヒント量に収めています(収めているはずです)。
  3. 問題はなるべくコンパクトに
    問題そのものが説明となるので、なるべく冗長にならないように、基本は5×5の中に収めるようにしました(内側度3~などのテーマはどうしても難しく、最大7×7まで許容しました)。
    これは、解説量の削減という思わぬ効用ももたらしました。
  4. ボス問は少し大きめに
    先程の例外がボス問で、ここだけサイズをやや大きめにしました。見た目的にも難易度が少し高めになっていることを伝える為です。
    スーパーマリオブラザーズ初代で、どの面でもステージ4が城=難易度の山場となっていることを真似した結果となっています。その方が、ボスらしさも有って良いと思いました。
  5. バリアントは、今までの手筋を別方向から見直す形で
    形状バリアントは2色塗分け、城バリアントは内側度のテーマを少し捻った形として出題しました。小ループはどうしても思い当たるものが無く、仕方なく線と接続のテーマにスリザーリンクと視界のバリアントの2つを対応させました。

体感としては、5-4が最も制作に時間を掛けました。もともと5章の各問題のテーマは最後までなかなか決まっておらず、更に他のテーマとの被りを避けた結果、非常に時間が掛かってしまいました。

逆に3-1・4-1・4-3辺りは、比較的短い時間で制作できたと思います。この辺りは以前に同じテーマで作問したことが有ったため、かなり楽が出来ました。

4 後記

さて、解説まで用意した問題×30を1か月にわたって投稿しました。終わって見れば、解答記録者だけでも60人以上の方が解いて下さり、良い反応も多く頂きました。30問を用意した甲斐が有ったと実感しております。

ボツ問も含めて幾つかストックが有るので、尽きるまでは今後も1日1問投稿を続けようと思います。以前のように、新たなバリアントも出題出来ればと思います。

 

 

ここまでお読み下さり、ありがとうございます。それでは、良い一日を。

 

 

*1:このことは、産まれて1年も経たないパズルなので、ある程度仕方ないとも思っています。ネタだけで1ヶ月持つパズルは、その時点でかなり奥が深いと思います

*2:箱の中に箱という再帰構造がコンセプトの倉庫番パズルで、おまけ編では特殊ルールが追加されたパズルがプレイできます。

*3:余談ですが、全ての問題の難易度は解説をある程度流し読みしてから解く想定でランク付けしています。特に第4,5章の問題は難問が多く、中でも5-3から5-5はノーヒントで出題されればまずアゼンは免れないでしょう。

ヒントの出し方から考えるパズルの分類

こんにちは。最近はパズル制作が趣味になっています。

今回は、初心者でも制作しやすいパズルについて、独断と偏見に基づいて考察していこうと思います。

なお、パズルのルールの複雑さ・エディターやソルバーの有無については考慮しません。特にソルバーは有るとかなり便利ですが、今回はソルバー無しの完全手作りで考えます。これで生産者表示を要求されても安心ですね。*1

0 ヒントと制作のしやすさ

殆ど全てのパズルは、最初に盤面と幾つかのヒントが与えられ、それをもとに解答を導き出します。つまり、パズルを作るということは、(一意解になるように)ヒントを置くということでもあります。

作為や様々な手筋を入れ込むなど、上手いヒントの置き方は有りますが、今回はとにかくパズルとして完成させることを重視しましょう。Done is better than perfectの精神です。

今回は、次のように制作することを考えます。

『あらかじめ解答盤面を用意→解答盤面に合うように、ヒントを幾つか配置→一意解になったら終了』

この作り方の利点は、気が付いたら解無しという状況が起こらないことです。その為、折角置いたヒントを消して置き直すなどの修正を行う必要がありません。作為を入れ込むのが多少難しくなるという弱点が有りますが、今回はその点は気にしないこととしましょう。

さて、この作り方がしやすいパズルとしにくいパズルとが有ります。

例えば数独は、かなりしやすい方です。適当にヒント数字を配置しても問題がないからです。対称配置も簡単に作ることが出来ます。

一方でナンバーリンクは、かなり難しい方でしょう。そもそものヒントを増やす方法が、ルール上存在しないからです。

この"作りやすさ"に、具体的な基準を設けることはできないでしょうか?

 

1 どんな解答も一意解に出来るか

そこで、まずは次の問題について考えていきたいと思います。

どんな解答盤面に対しても、出来るだけ多くのヒントを出せば、その解答以外に解答がない状況(=一意解)に出来るか?

この性質があるパズルの簡単な例として、数独が挙げられます。全ての数字を表出してしまえば、それがそのまま答えです。

一方、殆どのパズルにはこの性質は有りません。つまり、出せるだけのヒントを全て出しても解答を絞り切れない可能性が有ります。

スリザーリンクでは、ヒントは[特定のマスの4辺のうち、線が通る数]を表します。この情報は4辺の総和であり、各辺に引かれるかどうかが確定する訳ではありません。
このことが悪さをし、次の様な盤面が出来てしまいます。

(左)想定解 (右)余剰解

ましゅでは、ヒントは[特定の線の繋がり方をする箇所]を図示します。そのような箇所が少なければヒントも減ってしまい、実際に次の様なヒントを配置できない盤面が出来てしまいます。

無記号配置。この場合、盤面内のどんなシンプルループも答えとなってしまう

さて、ここで分類の難しいパズルが有ります。四角に切れです。このパズルは解答盤面に対して複数のヒントの出し方が有り、その違いによって一意解かどうかが変わることが有るからです。
仮に黒丸の置き場所を最初に固定した場合、一意解とはならないケースが簡単に構成できます。一方で、黒丸の置き場所を固定しない場合、一意解とはならないケースは無いように見えます(全ての黒丸を一番左上に置けば良いと思って証明を試みたのですが、無理でした。反例や証明が見つかった方はご連絡下さい)。

へやわけでは、事態は更に深刻です。部屋の分割方法を最初に固定した場合、一意解とはならないケースが簡単に構成できます(部屋を唯1つにすれば良いです)。一方で、黒マスだけを全て1マスの部屋で囲ってしまい、白マス全てを1つの部屋として表せば、これは一意解となります。

そこで、この違いを明確にすべく、次のように定義します。

定義(一意保証性):パズルXが一意保証性を満たすとは、任意の問題Aとその解答Bに対して、次を満たす問題A'が存在すること。

  1. Aで与えられている全ての情報は、A'でも全く同じ形で与えられる。
  2. A'の解答は唯1つであり、その解答とはBのことである。

定義(弱い一意保証性):パズルXが弱い一意保証性を満たすとは、任意の解答Bに対して、次を満たす問題Aが存在すること。

  1. Aの解答は唯1つであり、その解答とはBのことである。

 

簡単に言えば、一意保証性は『ヒントを適当に増やせばいつかは一意解に出来る』ということ、弱い一意保証性は『上手くヒントを与えれば一意解に出来る』ということです。

これにより、四角に切れへやわけは一意保証性を満たさないパズルと言えます。へやわけは弱い一意保証性だけを満たすので、この2つの条件は真の包含関係にあります。

さて、一意保証性を満たすパズルは、数独の他に何が有るでしょう?

例えば、虫食い算は一意保証性を満たします。これは全ての虫食いを復元すれば一意解となります。

覆面算も一意保証性を満たします。例えばA+A+A+A+A=BなるA,Bの組は1,5しかないので、この様な関係式を追加すれば全ての文字が確定できます。

マインスイーパは、地雷の総数を与えれば一意保証性を満たします。というのも、地雷以外のマスを最初から全て開けてしまえば良いからです。

Tapaも、実は一意保証性を満たします。全ての白マスを与えれば、各白マスの周り8マスの白黒は全て決定できます(白マスとして与えられている部分以外全てを塗ることが、黒マスの総数から分かります)。となるとどの白マスとも8方向で接しない黒マスが必要ですが、黒マスの2×2禁からその配置は不可能です。*2

さしがねも、一意保証性を満たすパズルです。全ての白丸とその面積を与えれば、全ての領域が表出していることとなり、ここに矢印を全表出すれば各矢印から白丸まで接続線を伸ばすことで確定します。

ボーダーブロックでは、全てのマスにどの領域に所属するかの記号を載せれば、違う記号同士が隣り合っている箇所に線を引くことで解答が得られます。よって、一意保証性を満たすと言えます。クロスウォールも同様の作業で一意保証性を満たすと言えます。

↑ボーダーブロックにおける領域の『分割』について、間違った理解をしておりました。ルール上では同じ領域内に余計な線が入っていても、その線が行き止まりにならなければ良いと読み取れ、これにより一意解とならない可能性が有ります。

具体的な反例は、ミレイ様が以下の投稿にて掲載しております。

x.com


なお、クロスウォールでは(盤面が通常の平面である限り)同じ領域内には余計な線が入りません。この為、上の説明で一意解性が示されます。

ご指摘下さったミレイ様に深く感謝を申し上げます。

 

 

他に一意保証性を満たすのは、フィルオミノ、波及効果、ビルディングパズル(内部表出有りの場合)、アイスバーン、数コロ、マカロ、バッグ、Rassi Silaiなどが挙げられます。*3

この様なパズルの多くは、虫食い系』=解答盤面の一部分を(どこでも)ヒントとして表出でき、残りの部分を復元するパズルとなっています。Tapaや数コロは、厳密には虫食い系ではない(黒マス・数字の置かれないマスをヒントとして表出できない)のですが、それに近いでしょう。アイスバーンも同様です(解答の道順を表出すれば、それ以上線を足すことは不可能)。

虫食い系ではないものはやや少なめで、覆面算やさしがね、ボーダーブロックやRassi Silai等に限られます。

 

 

他のパズルについては……

Kropki…2×2以上では一意保証性を満たしません。
2×2と5×5以上では、弱い一意保証性も満たしません(6×6以上ではどこにも白丸黒丸を置けない配置が存在し、5×5は個別に構成できます)。

(左) 6*6無記号配置 回転・反転した盤面と区別できない
(右) 5*5(※灰色円は白黒両方可) 左上の角が確定できない

 

3×3では弱い一意保証性を満たします(1と2の間を全て黒丸で埋めれば良いです)。4×4は自分の中では未解決です。

シャカシャカ…白マスに情報を置けないことが災いし、何もない盤面が弱い一意保証性の反例となります。

ぬりかべ……3×3で中央以外全て黒マスの例を考えれば、弱い一意保証性を満たさないと分かります。

へびいちご…蛇がいないマスを全て黒マスにしても、矢印が1つも蛇に向いていないと蛇の頭が決まらないので、一意保証性は満たしません。
一方、どの蛇も縦横で接しないことから、黒マスを全て与えると蛇は1,2,4,5のどれか1つでも判明すれば決まります。ここから条件をかなり絞ることが出来、実際にこの事実から外周が全て黒マスならば弱い一意保証性を満たすことが示されます(そうでない場合は1×5盤面などの反例が有ります)。

ヤジリン・ヘヤジリン・月か太陽…そもそものシンプルループが弱い一意保証性を満たさないため、これらも弱い一意保証性を満たしません。Tapa Like Loopスラローム・Castle Wall等、殆どのシンプルループ系のパズルも同様に、弱い一意保証性を満たさないことが分かります(全てのマスに線が通るようにすれば、情報を配置できず一意解となりません)。

キンコンカン…全マスに鏡を置けば部屋の分割方法は1通りしかなく、その状況で全く光が入らない空間を作れば、その中での鏡の置き方は光の道順では判別できないので、弱い一意保証性が満たされないことは直ちに従います。

中央の?4マスの鏡の向きが確定できない(何でも良い)

 

因子の部屋・検ロジ…解答盤面と部屋の分け方まで全て決まっている為、弱い一意保証性を満たしません(検ロジはヒントの出し方によって決まるかどうか変わる可能性が有りますが、部屋が1つだけのケースを考えれば無理だと分かります)。

部屋の分割を自由にできる場合については、後述します(ヒントの出し方が変わるので、一意保証性とは見做しません)。

やじさんかずさん…全ての黒マスを→(盤面の上限を超える大きさの数字)とします。あとは、残りのマスが全て白マスだと分かればよいのですが……
ここで、盤面で長い方の辺が2以上と仮定します。この列の端以外に黒マスが有れば、その両隣は白マスで確定するので、この2マスの矢印がお互いを向き合うようにすればこの列の白マス全てが確定します。
端に黒マスが有る場合も、その隣の確定白マスの矢印を反対側の端を向くようにすれば確定します。
よって問題は、全て白マスの場合です。ここで、この列の隣り合う白マス2つにお互いを向き合う矢印を付けた0を配置します。このうち片方でも黒マスならば、もう片方も嘘情報となって黒マスとなり、黒マスが隣り合って矛盾します。つまり、この2マスは白マス、従って情報は真であり、これよりこの列は全て白マスと分かります。
これより、1×1盤面以外は全て弱い一意保証性を満たします
なお、一意保証性は満たしません(1×n盤面で、全てのマスが盤面の短い辺と平行の矢印で0と書かれている場合、両端が確定しません)。

流れるループ…線が曲折する箇所にヒントを置けない弱点が災いし、例えば次のような解答を考えると弱い一意保証性を満たさないことが分かります。

(左)想定解 (右)余剰解

ストストーン…石(つまり領域)が1つだけの場合、領域分割の方法も1通りしか存在せず(ストストーンでは全ての領域に石が1つ以上入り、かつ石は領域を跨いで縦横に隣り合いません。よって1つの石と1つの領域とが対応します)、これにより弱い一意保証性を満たさないことが分かります。

チョコバナナ…6が3×4状の盤面に敷き詰められている状況が弱い一意保証性の反例となります。

ダブルチョコ…盤面の模様も決めてしまうため、2×2盤面に白黒交互に配置した状況(全てのマスには1と表記されている)が弱い一意保証性の反例となります。

ホタルビーム…線が少ない状況では出せるヒントも少なく、実際に次の盤面が弱い一意保証性の反例となります。

(左) 想定解 (右) 余剰解

天体ショー…次の盤面が弱い一意保証性の反例となります。

(左)想定解 (右)余剰解

カーブデータ…次の盤面が弱い一意保証性の反例となります。画像の例では中央にヒントを置いていますが、何処にヒントを置いても2つの解答を区別できません。

※一見、右図はルールを満たしていないように見えますが、左図と同じように左方向に進む→左折×4となっているのでルールを満たします(左図ではスタートのマスが右上、右図では中央となっています)。

(左)想定解 (右)余剰解

LITSのりのり…部屋が1つしかない盤面が厳しく、弱い一意保証性の反例となります。

スターバトル…☆2つ以上のときの弱い一意保証性が未解決です。
☆1つのときは、弱い一意保証性が成立します。具体的な方法は、図を見てもらった方が早いでしょう。

棒グラフのような何か。☆1つの場合はこの方法で一意解となります。

なお、全ての領域を縦1列にすれば領域からの情報が何も得られなくなり、☆が幾つの場合でも一意保証性の反例となります。

ひとりにしてくれ…全部白マスの盤面が厳しく、この場合角のマスが黒マスとなっても良いため、弱い一意保証性の反例となります。

ぬりみさきドッスンフワリなど、そもそもヒントを増やすこと自体が難しいor不可能なパズルも存在し、これらのパズルも(弱い)一意保証性は期待できません。

 

2 実質的な情報量の増加と一意解性

さて、一意保証性のないパズルを作成する場合、ヒントを解答盤面に近づけて増やしていくだけではどうにもならないことが有ります。

しかしながら、一部のパズルでは『実質的に』ヒントを増やせる方法が有り、その方法を用いて一意解に出来るケースが有ります。

四角に切れ特定領域を全て1に分割
同様の手法がLohkousにも適用出来ます。

ナンバーリンク線を細分
用意されている解答盤面は、全てのマスを通るとします。(実際に解く際は、全てのマスを通るかは分からない状態でも良いです)
このとき、線を長さ1(余りは長さ2)に細切れにすれば良いです。具体的には、以下の様にします。

(左) 用意した解答盤面 (右)余剰解
右図の通り、このままではとても確定できない盤面ですが……
(左) 元の解答を細切れにした形 (右)左図を元に再構成した問題
長さ1の線(余りが出来たらそこだけ長さ2とする)に分割することで、一意解になります。

ここで、以下の事実を示しましょう。
◆ どの2つの数字も、長さ2以下の線で結ばれる。
証明します。マスの配置の偶奇性から、特定の数字同士を繋ぐのに偶数マス(つまり最低2)要るか奇数マス要るか(つまり最低3)かは確定します。偶数マスの数字と奇数マスの数字それぞれで最低マス数で結んでいるので、マス数の余裕はありません。
これより、未確定の可能性が有るのは3マスL字のケースのみです。
未確定のマスが有るとき、そのマスを他の3マスL字が通る可能性が有ることとなり、すると3マスL字が斜め一方向に延々と連なってしまいます。が、これは盤面の端に当たって何処かで止まり、そこで一意解となります。

因子の部屋/検ロジ:部屋を細分

因子の部屋では、部屋を細分すれば実質的にヒントが増加します。検ロジでも、部屋を細分する際に元の部屋と同じ演算を引き継ぐようにすれば、実質的にヒントが増加します(-,÷は3マス以上の領域には適用されないものとします)。特に1マスだけの部屋に細分すれば、そこで一意解となります

へやわけ黒マスを隔離

へやわけでは、黒マス1マスだけを囲んで1つの部屋としても、条件を満たします。そこで全ての黒マスを1マス部屋にした後、全ての部屋の黒マス数を表出すれば、一意解となります。

3 結論…作りやすいパズル3選

結局のところ、どのパズルが作りやすいのでしょう。以上の考察を元に、作りやすいと考えられるパズル3選を紹介します。

 

数独(6×6)

ヒントをどんどん開示していけば、いつかは答えになります。開示の仕方は自由なので、対称配置になるように開示していけば、最終的な問題も対称配置になります。

通常サイズの9×9はやや大きく、解答盤面を用意するなどで時間がかかるので、まずは6×6で制作すると良いと思います。

 

因子の部屋/検ロジ

部屋をどんどん分割して小さくすれば、いつかは答えになります。

最初は5×5がおススメです。5は素数なので、掛け算として大きな情報になります。検ロジ(四則演算なら何でもOK)の場合でも、5の倍数になる掛け算が大きな情報になることは変わりません。

 

マインスイーパー(地雷総数の情報アリ)

白マスをどんどん開けていけば、いつかは答えになります。

取り敢えず幾つか開けて、運ゲー盤面などで推測が詰まったら何処かの白マスを新しく開けるというやり方が出来ます。14 Minesweeper Variantsでは、5×5盤面に10個の地雷が入っている配置がデフォルトなので、まずはこのルールで制作すると良いと思います。

 

 

以上、『どんな解答盤面でも一意解にしやすいかどうか』という観点から、パズル制作の難易度について考察しました。一意保証性があるパズルでは、解答盤面を用意できさえすれば、問題を比較的容易に制作できます。特にマインスイーパーでは、解答盤面を何かのドット絵にしておき、全ての白マスを開けると絵が浮かび上がる様にするという芸当も難しくはないでしょう。弱い一意保証性であっても、領域を分割するなどの分かりやすい方法で一意解に出来る場合は、これもまた問題の制作が比較的楽になります。

とは言え、この見方はパズルの一側面に過ぎません。たとえば四角に切れでは、素数の面積の表出を増やすと相対的に解きやすくなるでしょう。この様に、序盤から分かりやすく強い情報を持っている表出を幾つか配置することで、最終的に一意解にすることがぐっと簡単になる場合が有ります。

ですが、その様な制作方法は、多少なりともそのパズルの手筋を知らなければいけません。知っているに越したことはないのですが、ただ作問して初めて見えてくる手筋も有ると私は思います。そこで、初めから手筋を何も知らなくても取り敢えず作問は出来るパズルを選びました。習うより慣れろの精神です。

 

ここまでお読み下さり、有難うございます。それでは、良い一日を。

 

[余談]

個人的に、クロスウォールと逆へやわけとでは、逆へやわけの方が制作難易度が高いように思えます。やはり、クロスウォールの一意保証性のお陰なのでしょうか。

一意保証性を調べてほしいパズルがありましたら、コメントをお願いします(気まぐれで検証&追記することが有ります)。

 

[追記]
07/09 21:40
ホタルビームの画像がルールと整合していなかったため、修正しました。

*1:パズルに『遺伝子組み換え』などと表示されても困りものですが……

*2:この説明から推測される通り、盤面が一部くぼんでいると、一意保証性を失うことが有ります。

*3:Rassi Silai以外は全表出で一意解となります。Rassi Silaiは、線が通らない箇所全てに境界線を引けば良いです。

クロスウォールの解き筋について

前回に続き、今回もパズル『クロスウォール』についての記事になります。

ルールについては、こちらの投稿をご覧下さい。

 

今回は主な解き筋を紹介する他、練習問題を9問用意しました。

(一部の問題に、原因不明のバグで説明欄に宛先無しのソースが出来ていますが、無視して下さい)

それでは、早速クロスウォールの解き筋を紹介していきましょう。

 

1 初級編

まずはここから覚えると良いと思います。

・それぞれの点を通る線は偶数(0,2,4)本。

『全体で1つの輪っか』というルールから分かります。地味ながら重宝する性質で、この性質を使うことで線が引かれるかどうかが分かることが多く有ります。

・面積が1のマスは、外周を除く周囲に線が通る。

面積1はかなり注目度の高い情報です。

・外周に接しているマスの内側度が0なら、そのマスと外周の接する所には線が引かれない。反対に内側度が1なら、線が引かれる。

端は線の引き方が限られるので、何処に線が引かれるかがより重要になります。

なお、端のマスの内側度は0か1になります(そのマスから1マス分移動すれば外周に到達するので、2本以上輪っかの線を横切らない=内側度が2以上にならない)。

・内側度が0の領域は、外周と接する。また、その領域が外周と接する所には線が引かれない。

内容はただの内側度の言い換えですが、何気に重要な性質です。

・全ての線は、一繋がりになっている。

線が一繋がりになっていないと、一つの輪っかになりません。

 

初級編 練習問題

Q1:線を引かない所に印を付けると……

(線の中間を右クリックで、線の代わりに✕印を付けることができます)

推定難易度:★☆☆☆☆

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Q2:内側度0の領域を良く見ると……?

推定難易度:★★☆☆☆

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2 中級編

ここから先は、初見では気付きにくい手筋です。

・内側度がNのマスから内側度がMのマスまで縦横にマスを辿るとき、[N-Mの絶対値]回以上線を横切る。
特に、外周を内側度0のマスと見れば、内側度がNのマスから外周まで縦横にマスを辿るとき、N回以上線を横切る。

例えば、内側度が3の領域Aと内側度が1の領域Bとが辺を共有していたとします。すると、A→B→外周と通ることで、Aから2回で外周に到達できてしまいます。これはおかしいので、AとBとは辺を共有しません。

左側の内側度2のマスは、外周から2マス右に有ります。
外周からこのマスに行くまでに2回以上線を横切るので、左の線が確定します(右図)。
右側の線も同様に確定します。
左側の内側度2のマスから右に2マス行くと、内側度0のマスに着きます。
ここまでに2回以上線を横切るので、中央左の線2本が確定します(左図)。
右側の内側度2のマスから左→下(or 下→左)と行くと、内側度0のマスに着きます。
どちらのルートでも2回以上線を横切るので、交差している線4本が確定します(左図)。
最終的に確定する線が、右図となります(✕は内側度0が外周と接するため)。

・輪っかの線が長方形を成すとき、(ほぼ確実に)長方形の頂点のうち少なくとも1つは交差点(=線が4本通る点)になっている。

小ループ禁の例です。長方形の全ての角で90度曲がると、もとの頂点に戻ってきてしまいます。この為、他に輪っかの線があると、その線を通らないのでルールに反してしまいます(『ほぼ確実に』と言ったのは、他に輪っかの線がない激レアケースが一応あるからです。とはいえ、そのような正解盤面となる問題はほぼ出題されないでしょう)。

・特に、角のマスが面積1内側度1であるとき、そのマスの頂点であって外周上に無い点では(ほぼ確実に)交差点を作る。

角の面積1内側度1は交差点を作れる格子点が1か所しかないので、自ずと交差点になります(『ほぼ確実に』と言ったのは、その1だけを囲む輪っかが正解である問題が一応作れるからです。とはいえ、余りにも面白味に欠けるのでまず出題されないでしょう)。

・数字の入っているマス2つが隣り合っているとき、その2つのマスで面積と内側度の少なくとも片方が違うなら、2つのマスは異なる領域になる(マスの間に線が通る)。

同じ領域では、面積も内側度も同じであるという性質を用いています。

実はより強い事実が言えるのですが、それは上級編で説明します。

・内側度が1以上のマスは8方向で一繋がりになる。

内側度が1以上のマスが8方向で分断されていると、輪っかが分裂してしまいます。

 

中級編 練習問題

Q3:内側度が大きいマスに注目すると……

推定難易度:★★☆☆☆

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Q4:内側度1以上のマスを一繋がりにしよう

推定難易度:★★★☆☆

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3 上級編…2色塗分け定理とその活用

ここから先は、知っておくとかなり便利な手筋です。この手筋が成り立つことの説明には少し数学的な背景が必要なのですが、それは今回の記事では割愛します。

・外周を含めた全ての領域は2色で塗り分けできる(同じ色で塗った領域同士が辺を共有しないように、2色で塗り分けられる)。このとき、外周または内側度が偶数の領域が片方の色に、内側度が奇数の領域がもう一方の色に塗られる。

領域を2色塗分けした図。内側度が偶数→黄色、奇数→緑色で色付けしています。

ここで必要なのは次の定理です。証明は割愛します。

定理:連結な平面グラフが2-面彩色可能である必要十分条件は、そのグラフの任意の頂点から、ちょうど偶数本の辺が出ていることである。

そして、クロスウォールの線は一繋がりの輪っかになっていることから、全ての領域が2色で塗り分けられることが分かります。

一方、内側度とは『外周に到達するまでに最低で何本の輪っかの線を横切るか』で、これは『[外周に到達するまでに通った領域の数]+1』と言い換えられます(輪っかの線を通るごとに異なる領域に行くことから分かります。+1は植木算の+1です)。ここで、隣り合う領域は異なる色に塗られているので、外周に到達するまでの道順を辿ると、色が交互に変わっていくこととなります。これが領域の色と内側度の偶奇性とに対応し、始めに述べた性質が言えます。

さて、このことから分かる性質を一気に紹介しましょう。

・隣り合う2つの領域に対し、内側度の差はちょうど1である。

中級編で初めに述べた性質から、内側度の差は1以下です。ここで、この二つは異なる色分けをされているので、内側度の偶奇は違います。よって、内側度の差は0ではなく1であると分かります。

・隣り合う2つのマスの内側度が同じなら、同じ領域である(つまり、この2つのマスの間には線が通らない)。

上の性質を言い換える(ほぼ対偶)と導けます。何気に凄く強力な性質です。

・内側度がMのマスから内側度がNのマスまで縦横にマスを辿るとき、線を横切る回数は[M-N]と偶奇が一致する。
特に、内側度がNのマスから外周まで縦横にマスを辿るとき、線を横切る回数とNとの偶奇は一致する。

『外周に到達するまでに最低で何本の輪っかの線を横切るか』=『[外周に到達するまでに通った領域の数]+1』という性質から導かれます。

・異なる領域の内側度が同じとき、その2つは縦横に隣り合わない(つまり、辺を共有しない)。

先程の性質を適用すれば、この2つの領域は辺を共有しないことが分かります。

 

さて、以上の性質を纏めましょう。

・隣り合う2つのマスの内側度の差は0か1であり、0なら同じ領域、1なら異なる領域となる。

・隣り合う2つのマスの面積が異なるなら、内側度は1だけ異なる。

・内側度がMのマスから内側度がNのマスまで縦横にマスを辿るとき、線を横切る回数は[M-Nの絶対値]以上であり、更に[M-N]と偶奇が一致する。
外周は、内側度0のマスとして見ることで同様のことが言える。

これが分かれば、きっとあなたもクロスウォール上級者です。

 

上級編 練習問題

Q5:2色塗分けで考えると……

(マスの中央をタップで、無色→黄色→緑色→無色の順に色付けできます)

推定難易度:★★★☆☆

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Q6:内側度の離れたマスが近くにあるときは……

推定難易度:★★★★☆

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4 おまけ編

その他、クロスウォールで使われる手筋です。

・曲がり角の交差が確定する構図1:異なる領域の出会い頭衝突

初級編で載せてもいい手筋ですが、順番的にここに載せました。

例えば、下の図で赤と青が異なる領域だと分かっている場合(面積が違うなど)、中央の格子点が交差点になることが確定します。

異なる領域が向かい合わせになっている図。右上の線2本が確定します。

応用として、交差させないと面積が大きすぎて矛盾するというケースが有ります。

中央の曲がり角が交差しないと、3_?が有る領域の面積が4以上になり矛盾します。

・曲がり角の交差が確定する構図2:小ループ回避

クロスウォールの線は交差点で直進する条件の下で一繋がりになっている必要があり、従って小ループが出来たらどれかの角を交差点にして回避する必要が有ります。

長方形の4隅のうち少なくとも1つは交差点になることもこの応用です。

また、直進する線は必ずその方向に進むので、それを用いて道を決定するケースも有ります。

・内側度が0で、盤面中央寄りにあるマスが絡む構図

内側度0のマスを上手く救出する(=外周まで繋げる)必要が有ります。

・面積2のマスが絡む構図

面積2と2色塗分け定理は非常に相性が良く、幾つかの問題に応用されています。

代表的なものが次の構図です(内側度が1である必要はなく、その場合奇数なら全てのマスの色が同じに、偶数なら逆になります)。

面積2の有る構図。右上のマスの色が外周と同じであると確定します。

 

おまけ編 練習問題

Q7:衝突・小ループを回避しよう

推定難易度:★★★☆☆

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Q8:中央の内側度0を救出するには……?

推定難易度:★★★★☆

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Q9:面積2と2色塗分け定理の応用

推定難易度:★★★★★

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ここまでご覧下さり、有難う御座います。皆さんも、是非クロスウォールの世界を楽しんでみて下さい。

 

 

 

 

パズル『クロスウォール』の考案・試作

先日Twitterでも公開しましたが、『クロスウォール』というパズルを作りました。今回の記事では、このパズルについて記そうと思います。

 

1 クロスウォールとは?

クロスウォールは、縦横に線を引いて1つの輪っかを作るパズルです。詳しいルールは、以下のツイートをご覧下さい(例題に加えて、幾つか問題も載せています)。

 

2 クロスウォールの特徴

このパズルの特徴的な点は、線が自己交差できることでしょう。大抵の線を引くパズルでは、一般的に線の自己交差は禁止されています(但し、領域分割の為だけに線を引くパズルは除きます)。Puzzle Square JPで10件以上投稿されているものを対象に調べてみたところ、自己交差できるパズルは6件/59件と結構な少数派でした。それぞれ簡単に説明すると、

  • アイスバーン系(アイスバーン/バーンズ/アイスローム)
    1つの折れ線(あるいは輪っか)を作る。線は『アイスバーン』と呼ばれる水色マスでのみ交差可能。アイスバーンの上で線を曲げることはできない。
  • リフレクトリンク
    1つの輪っかを作る。輪っかは自己交差マークのあるマスでのみ自己交差する。
  • パイプリンク
    1つの輪っか(あるいは折れ線)を作る。線は自己交差可能で、全てのマスを少なくとも1回通る必要がある。
  • クロスブリード
    同じ数字どうしを線で繋げる。線は自己交差も含めて交差可能で、全てのマスを少なくとも1回通る必要がある。

こうして見ると、既存のパズルではどれもマスの中央を通るように線を引いていることが分かります。これに対してクロスウォールは、マスの境界線を通るように線を引きます。これはクロスウォールのオリジナリティと言っても良いのではないでしょうか。

 

クロスウォールのオリジナリティはもう1つ有ります。それはマスの右下に小さく書いてある数字、通称『内側度』あるいは『内陸度』と言われるものです。
この数字は「そのマスから外に出るまでに何回輪っかの線を横切るか」を表すもので、いわゆる『領域の内側・外側』の拡張版と言えるでしょう。

内側・外側が関係するパズルはそれなりに存在し、特に全体で自己交差のない1つの輪っかを作るパズルと相性が良いです。しかしクロスウォールの内側度2~のようなヒントが意味を持つには、輪っかを複数にするか、輪っかの自己交差・枝分かれを許容しなければなりません。*1

では、クロスウォール以外にこのようなヒントを持ったパズルが存在するかというと、線を引くタイプのパズルでは見当たりませんでした。*2また、領域を分割するタイプのパズルも、基本的にその領域だけを見てわかる情報(面積・形状など)がヒントになっていることが殆どで、内側度のように全体に左右される情報は殆どありませんでした。*3

というわけで、クロスウォールは2つもオリジナリティを持った独特なパズルと言えるでしょう(自画自賛をお許し下さい)。

因みに、マスの中央に大きく書いている数字は、その領域の面積を表すものです。面積がヒントになっているパズルは多く有り、有名なものでは『四角に切れ』『フィルオミノ』辺りが該当します。これはオリジナリティというよりは、既存のパズルとの類似点に近いでしょう。

 

3 クロスウォールができるまで

まず、『1つの輪っかを作る・自己交差OK』というアイデアは最初期の時点でありました。内側度のヒントも、上のアイデアを活用する過程で自然に出てきたもので、ここまではほぼ固まっていたと言ってよいでしょう。

クロスウォールのルールを決めるにあたって最も悩んだのが、内側度以外のヒントを何にするかです。

先に、他のルール・ヒントについて考えます。

  • 線は輪っかになる(自己交差OK)
    これは各格子点から偶数本の線が出ていることをチェックすれば良いです。かなり局所的なヒントです。
    とはいえ、全体で輪っかになれば良いので、多少の遠回りもでき、そのため自由度はそれなりに有ります。
  • 全体で1つの輪っかになる(交点では直進)
    これは全体を見る必要が有ります。角の面積1_内側度1など、局所的にも使える場面は有りますが、基本的にはかなり大域的なヒントです。
  • 内側度
    これも大域的なヒントになります。特に、中央に近いマスでは周りの状況によって内側度が左右されやすくなり、局所的とは言い難くなります。

こうして見ると、答えの盤面に比べて多少の遠回りをしても、『ルールに沿わなくなる・ヒントの数字が変わる』などで矛盾することがそこまで起こらないことが分かります。これでは答えの盤面を1つに決められず困るので、何か別のヒントを加えることにしました。

最初に思い付いたのが、スリザーリンクの『このマスの周囲に輪っかの線が何本あるか』です。自己交差が可能なので、スリザーリンクにはない「4」が出てくるのも興味深いポイントです。そこで、早速制作に取り掛かったのですが……

結論から言うと、諦めました。理由は、ヒントが局所的すぎたことです。自己交差OKの輪っかはかなり自由度が高く、周囲の線の本数というヒントだけでは多少の遠回りを上手く抑えきれなかったのです。

結果、現在の中央の数字のように『面積』をヒントにすることで落ち着きました。これによって多少の遠回りも「面積が異なる」という区別ができるようになり、答えの盤面を一気に絞れるようになりました。また、面積1など、中央に有っても取っ掛かりになりやすい所が出来たというのも大きな利点です。

 

4 クロスウォールの試作品

以上の紆余曲折を経て、初めて制作したものがこちらです。

(下リンクより挑戦できます)

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宜しければ、解いてみて下さい。ここまでお読み下さり、有難う御座いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:逆に言えば、内側度が0か1しかないからこそ、内側・外側という分け方で十分なのだとも言えます。

*2:先程と同様に、Puzzle Square JPで10問以上投稿されているものを対象にしました。

*3:Puzzle Square JPで10問以上投稿されているパズルを対象にしたところ、条件に合いそうなものはヤジタタミの数字とVoxasの丸の2つだけでした。