Solyuの気まま日記

Solyuの思ったことや考えたことをまとめます

数学甲子園2018を振り返って

時の流れは速いもので、気が付いたら既に開設のお知らせから数か月も経ってしまいました。実質この記事が初めての記事になりますね。気まま日記のせいなのかどうかはわかりませんが、とにかく更新が非常に遅いのです。ですが本人の維持で何とか年内に1記事は出せました。こうして自分が更新する側に立ってみると、定期的に更新をしている方々は改めてすごいなあと思います。

さて言い訳を並べ立てるのはこれくらいにしておいて、本題に入ります。

2018年9月16日に開催された数学甲子園(正式名称:第11回全国数学選手権大会)にて、『数学界のTourist』チームのリーダーとして本選に出場してきました。準備不足やメンバーの欠場もあり色々不安でしたが、幸運にもどうにか最終的に1位となりました。本当に嬉しい限りです。

数学甲子園って何?という方の為に(下部のリンクよりご覧ください)

www.su-gaku.net

このチーム名は、私が殆どノリでつけたようなものだったのですが、まさかこのチーム名の通り優勝への切符を手にしてしまうとは。他にもいろいろと候補が有ったのですが私のネーミングセンスの致命的欠如によりほぼすべて却下。でも今考えるとこのチーム名が一番しっくりくるようなこないような。(没案にはメンバーの名前の頭文字を合わせたものなどが有りました。来年はどんなチーム名にしましょう……)

最も、各競技ではそれぞれ最高得点を取ったチームが別に有るので、色々危うい勝利でもあります。また予選の成績も全体から見て平均以下で、Math Live中に私一人だけで話してしまったというミスも有るので、来年に向けて改善しなければならない所です。

今年の数学甲子園は過去最多のチーム数が出場しました(280校639チーム2,595人が中学・高校・高専から出場とのことです)。その中で本選に出場できるのはわずか(とはいっても上位5.6%なのですが)36チーム。この選出方法は少し特殊で、24チームは通常通り平均得点(チーム人数は3~5人である事という制限が有ります。本選では後述するMath Battleのことも有り多い方が有利ですが、予選では有利不利の差は殆どありません)の高い順に、残りは地域ごとに分けて各ブロックから得点の高いチームを選びます。また、同一高校からは2チームまでしか本選に出場できません。

平均得点なので、メンバー全員数学が得意である必要が有ります(優秀なメンバーを集められて本当に良かったです)。しかも予選は20問を僅か60分で解かなければなりません。相当な早解きのセンスが求められ、また記述無しで解答のみなのでケアレスミスで貴重な1点があっけなく飛びます。今年は去年に比べて更に難化したせいなのか、満点は誰一人としていませんでした(最高点は19/20点だったそうです)。私達のチームは……何と本選出場者平均の11.8点を下回る11.2点。一筋縄ではいかないと思い知らされました。

そして迎えるは本選……の前に、Math Createという事前競技が本選の大体2週間くらい前に有ります。チームで問題を95分の制限時間内で創作します。詳細については後述。

そして本選でMath Battleを行います。これは日本語12問+英語6問で計18問の問題を60分の制限時間内で解き正解数を争う競技です。予選と同じく答えのみなのでこちらもほんのちょっとのミスが命取りになります。面白いことに、参考書の持ち込み・参照が認められています。その為か本選では参考書をずらりと並べて『完全装備(※戦うのは参考書ではなく人間である)』をしているチームの方々が多かったです。私は初めて見た時に非常にびっくりしました。(私も一応参考書は持ってきてはいましたが、虚弱なので荷物の軽量化の為数冊くらいでした……。)

こちらでは私達のチームの点数は120/180点。最高点は130点なので、4人というディスアドバンテージにしてはかなり頑張った方だと思います。

そしてMath CreateとMath Battleそれぞれの競技の1位のチーム、それ以外から合計点数の高い順に4チーム、計6チームがMath Liveに出場できます。

ここではMath Createにて作成した問題について実際に壇上で発表する形になっています。そこで自分たちのチームの問題について5分の制限時間内で説明した後、他のチーム(Math Liveに出場しない学校の中から5校が選ばれ質問する側になる。但し敗者復活のチームはMath Liveに出場した他の6校が質問する側になる)や主催者からの質疑応答などに答えます。

ここで変わったシステムなのですが、質疑応答が鍵となっていて、質疑応答でよい質問をしたチーム1つが選ばれ『敗者復活』となり、Math Liveに7番目のチームとして出場できるのです!!!今回は確率の問題においてそもそもの確率の取り方という本質的な質問をした開成高等学校の開成高1Sチームが選ばれました。

(Math Liveの映像は公式サイトにて公開されています。3番目に発表しているのが私たちのチームですので宜しければご覧下さい。)

freshlive.tv

 

それでは、せっかくなので本選競技の一つ・Math Createにて私たちのチームが作成した問題について私なりに説明しようと思います。

Math Createでは6つの映像に共通するテーマを見つけて、それに沿った問題を作成することが目的でした。(このテーマですが、毎年変わったものが出ます。なので私達のチームも十分心構えはしていましたが流石に映像は予想外でした……)私たちのチームはここから『分ける』というテーマを見出し、これをテーマにした問題を作成しました。(後で分かったことですが、『分ける』が模範回答だったようです。『映像』とか『効果音』とかをテーマにしなくて本当に良かったです……)ここで作成した問題をMath Liveにて発表するので、Math Createで110点を取れたのは非常に良かったと思います。(因みに最高点は128でした。)

『分ける』というテーマの絡め方もチームによってさまざまでした。例えば大問を小問に『分ける』、折り紙で領域を『分ける』……等々。問題も方向性が多彩で、また模範解答も非常に驚かされるものが多かったです。

さて、問題は以下の様になります。

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【問題】

正方形のタイルで敷き詰められた、穴のない一つながりな領域(部屋)が有ります。

この領域の面積(タイル1つ分の面積を1とする)と周長(タイル1枚の1辺を1とする)から、この領域にタイルに沿って2×2のピース(犬のケージと表現していました)を配置する場合の数と1×2のピース(ウサギのケージと表現していました)を配置する場合の数をそれぞれ求めなさい。

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とここまで書くと、「犬とウサギってなんじゃい」というツッコミがどこかからか入るわけですが、これはとあるメンバーの機転です。問題が少しでも小学生や数学方面の道でない方に馴染みやすくするようにでした。ケージの大きさについてはやや疑問が残りますがあまり気にしすぎないでください……

もともと私は別の問題を用意していたのですが、チームメンバーの強い要望もありこの問題に決まりました。この問題は私が文化祭に出題した物を原案にしてそこに更に追加したもので、そういった背景もあり私がMath Liveにてスピーチを行いました。(今思うと、これは失敗だったかもしれません。というのも、私はMath Liveにて自分だけで話してしまい、結果ほかのメンバーが一回も話せず、チーム内での協力が少なく映ってしまいました……。他にも発表の初めに目線が下に向いていたりと失敗を重ねてしまいました。結果44点。最高点が56なので、大きなミスにしてはまだ失点は抑えられた方でしょうか。とはいえ、悔いの残る結果です。来年に向けて改善したいところ。)

 

さて、この問題ですが、一見してみただけでは余りにも情報が少なすぎるように見えます。何しろ面積と周長だけでは一般には領域の形は一意に定まりません(今回は領域が穴のないポリオミノであるという制約がついていますが、それでもただ一つには決定できません)。そもそも領域が定まったとして、それぞれのケージを置く場合の数を調べるのは大きければ大きい程骨の折れる作業に見えます。

しかしこれが求まるのです。では解説をしていきます。(数式の所は本人のスキル不足の為LaTeX表記にしていません。このため非常に見づらいですがご了承下さい……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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以降、必要に応じて面積をS,周の長さをLと表記します。

・ウサギのケージ(1×2)

二つの正方形が互いに1辺(合計で2辺)を共有していると見ることが出来る。ここで正方形はそれぞれが4つ辺を持っていて、共有されなかった辺がそのまま周りの長さに数えられる。

よって、『正方形の数』×4-『ウサギのケージが置ける数』×2=『周の長さ』が成り立つ。これより、S×2-L÷2が求める答えとなる。

・犬のケージ(2×2)

ケージの中央部分に注目すると、領域の中で周上に存在しない格子点と見ることが出来る。実はここからピックの定理を用いると求まるが、ここでは別の方法を扱う。

(ピックの定理は頂点が格子点上に有る多角形の面積をその図形の内部・周上の格子点の数から決定する定理。詳細は後述)

各点を重心とした1辺が1の正方形を考える。領域内部の点なら、正方形は全て領域に含まれる。逆に外部なら全く含まれない。

周上に有るとする。この時領域の境界部分を始点と終点が同じでちょうど領域を囲んで1周した曲線と見ることが出来る。ここでこの境界線を有る点から反時計回りに辿ることとする。

周上の点では、そこで境界線が曲がらなければ領域は正方形の丁度半分を含む。反時計回りに90°回っている場合は、1/4だけ減って1/4が領域に含まれる。逆に時計回りに90°の場合は3/4が領域に含まれる。

ところで問題の図形を考えると曲線は合計で360°だけ反時計回りに回るので、

『周上の点の数』÷2₋4×1/4だけ含まれている計算となる。周上の点の数は周の長さと同じである。

以上を合計して、『犬のケージが置ける数』+L÷2-1=Sとなる。

よって、S-L÷2+1が求める答えとなる。

※『穴の無い領域』という条件を課したのはこのため。ウサギのケージは穴が有っても置き方の場合の数は変わらないが、犬のケージは穴の形状にもよるが、S-L÷2の部分はそのままで引かれる定数が変わる。

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以上が解答となります。(先程のリンクにある動画でも問題と模範解答が確認できます。なお、模範解答内に『連立して』という文言が有りますが、これは消し忘れです。本来はケージの置き方の場合の数が与えられてそこから領域の面積と周長を求める問題で、直前で変更したため残ってしまいました。)

この問題では、問われている組合せの分野での数え上げを、違う分野である幾何の観点から見ることであっさりと解決できるというのが大きなアピールポイントでした。この言い換え(対応付け)ですが、これ自体は小学生でも気づくことが出来る(現に原案の方では5歳児が解いたという事です。気づきさえすれば簡単だったと言えるでしょう……)ので、結果的にはMath Liveで公表された問題の中では、他のチームの洗練された難問に比べると相対的に見て易しすぎる問題となってしまいました。しかし、それが故に問題に馴染みやすさを与えたメンバーの作戦が功を奏したのではないかと考えています。

Math Liveでは質問タイムが有ります。主催者側からピックに定理とこの問題との関連性を指摘されました。

ピックの定理は格子点上に頂点を持つ穴の無い多角形の面積が、

『面積』=『内部の格子点の数』+『周上の格子点の数』÷2-1

であるというものです。これはそのまま2×2のブロックの置き方を表す式となります。(実は元ネタがこちらの方で、先程の説明は後付けでした)

2つのケージを両方置いた場合、またケージの形を変えた場合についての質問を頂きました。実はそれについても研究しているのですが、これについてはまた別の記事で。

実は私達のチームはもともと5人でした。ですがメンバーの内1人がとある国際オリンピックの代表選考の日程とかぶってしまった為、本選に出場できなかったのです。その結果Math Battleでは5人ではなく4人で問題を協力して解くことになり若干不利になりましたが、この責任はリーダーの私に有りますし、何よりメンバーの招集やMath Create、そして本選のチーム紹介文(昨年私の凡ミスでエントリーし忘れで0次予選敗退という恥ずかしい内容ですが……)を考えてくれた彼には本当に感謝です。

残念な事に、記念写真や優勝旗には彼を除いた4人分の名前しか載りませんでした(彼の分の金メダルも副賞も無しとの事。非常に悲しい……)。なので、来年こそは彼を含めた5人分の名前を載せて優勝しようと思います。二連覇をしたら数学甲子園史上初めての功績になるかと思いましたが、調べてみたら第1・2回にて愛知県立時習館高等学校(愛知県)が優勝していました。なので『10年ぶりの2連覇』を目指すこととなります。これはこれで趣深いものが有り(とは)。

大会の休憩時間の合間にいろいろな方たちとお話してきました。いつか会いたいと思っていた多くの方々にお目にかかることが出来ました(その中の一人には誕生日プレゼントを渡しました。喜んで下さって何よりです)。とても有意義で楽しい時間で、あっという間に感じられるほど素晴らしいひと時でした(なお、当の本人は会話に熱中しすぎて昼食はおろか水一滴すら取り忘れました。時期が夏だったことも有り身体が寒くもないのに震えだしたりして、健康上非常に危なかったです。反省として副賞で頂きましたカロリーメイトを適宜食べております)。

最後にですが、数学甲子園2018でお目に書かれた皆様、そしてメンバーの皆さん(本選に来られなかった1人を含む)と引率の先生、本当に有難う御座いました。いろいろな所で来年も参加するという言質をしっかりと取られてしまったので来年も同じメンバーで参加すると思われますが、その時はまたよろしくお願いします。